第250話 アルカンテスへ
私はアルカンテスに向かう準備を行っていた。
クランがアルカンテス城にて、ミーシアン国王になると宣言する式典が、約一ヶ月後に迫っていた。
現在は四月二十一日である。
もうすぐ秋も終わる時期だ。
気温は肌寒さを感じるくらい。
ミーシアンは温暖な気候なので、4月はまだそんなに寒くはない。
5月になると流石に寒くなってくるので、厚着はしないといけない。ちゃんと準備が必要だな。
明日に出発するつもりだ。
順調に行くと、アルカンテスにだいぶ早く着くことになる。
ただ、旅は何があるかわからないので、ちょっと遅れることもある。
早く着いたとしても特に損はないので、なるべく早く出発するべきだ。
この式典には、ミーシアン中から大勢の貴族が集まってくる。
郡長クラスの貴族は、間違いなく全員が参加するだろう。
遅れて出席できなかったという事態は避けなければいけない。
護衛としてブラッハムたちとファムが同行する。
それから、妻であるリシアも一緒に行く。
リーツ、ロセル、ミレーユたちには領地の運営を任せた。
仕事はいっぱいあるので、全員が一緒にアルカンテスに行くわけにはいかない。
私も現在は郡長をやっているので、誰かに狙われても不思議ではない。
ブラッハム率いる精鋭部隊の面々とファムがいれば、どんな相手でも撃退できるだろう。
リーツはいつものようにかなり心配して、自分も行くと言い出していたが、彼には城の運営をしてもらわないといけないので残ってもらった。リーツは誰よりも有能で能力の高い男だが、私のことになると冷静さを失う傾向にあるのが、唯一の欠点かもしれない。
準備を終え、翌日私たちはアルカンテスに向かって出発した。
道中は思ったよりスムーズに移動することができた。
元バサマーク派が治めていた領内は、もっと荒れていると思ったが、きちんと統治されているようで、野盗に出くわすこともなかった。
予定より数日早くアルカンテスに到着する。
五月になっていたので、流石に気温は寒かった。
アルカンテスには、ちょっと前に一度来たことがあった。
以前より人が増えて賑わっているように感じる。
ミーシアン統一により、アルカンテスに人が集まっているのだろう。
あと、単純にクランの統治がいいのかもしれない。
宣言を聞く前に、クランと面談をしておきたかったので、私はアルカンテス城に訪れて要請を出した。
しかし、今は取り込み中とのことで、すぐには面談できないようだ。
まあ、宣言の前で色々忙しいのだろう。
アルカンテス城に来訪している貴族が、私以外にもいるようだし。
面談は数日後。
宣言が行われる前日になった。
アルカンテスに到着した当日は、アルカンテス城の客室に通されて、ここで宿泊することになった。
城に入ると、先に来ていた貴族たちに話しかけられて、それの対応をする羽目に。
戦争で活躍して以降、ローベント家の注目度が上がっているのを実感した。
カナレ城でも貴族の対応は何度も行ってきた。
作法なども慣れてきたので、難なく対応する。
旅の疲れがあるのに、長話はしたくない。
なるべく早めに切り上げて、そのあと、自分たちの部屋に荷物などを置きに行った。
部屋は二部屋。私とリシアの部屋と、家臣たちの部屋だ。
全ての家臣を城に泊めることは難しいので、ザット、ブラッハムが部屋に泊まり、それ以外の兵たちは、町の宿屋に泊まることになった。
城に滞在している間、ザット、ブラッハム以外の兵士たちは休養となる。町中で護衛するのに、大人数は必要ない。兵士たちは羽目を外せると大喜びしていた。
ちなみにファムは、専属のメイドとして私とリシアの部屋に泊まる。
万が一のため近くに護衛はいた方がいい。
城の中なので安全に思えるが、実際はそんなに安全ではないと思う。
現在はほかにも貴族が宿泊している。腹の中では私を疎ましく思っている者もいるだろう。
暗殺者を差し向けようと思えば出来る環境だ。
用心しておくのに越したことはない。
「ようやくゆっくりできますわね~」
部屋に入ったリシアは疲れている様子だった。
馬車での旅はかなり大変だ。今回は平穏無事に移動出来たとはいえ、それでもきつい事には変わりない。
私も何回か旅はしたが、それでも全く慣れることはなかった。
「そうだな。今日はゆっくり休もう」
「はい。もっとアルカンテスを見て回りたい気もしますが、後日にしましょうか」
到着初日は旅の疲れを癒すため、ゆっくりと休憩した。
翌日。
休んで体の疲れがだいぶ取れた。
転生して体が若返ったので、疲れがすぐに取れる。
歳を取るとこうも行かなくなるのを知っているだけに、あまり歳はとりたくないなと思ってしまう。
前回アルカンテスに来た時は、軽くしか街を見ていなかったので、今回はもっと見て回ることにした。
もしかすると、優秀な人材もいるかもしれない。
人は多いので見つけられる可能性もあるはずだ。
まあ、アルカンテスにいる人材なので、見つけても家臣にはなってくれない可能性も高い。
それでもクランに優秀だと推挙したりすれば、評価も上がるだろう。
やる価値はあるはずだ。
私とリシア、ブラッハム、ザット、メイド姿のファムで、アルカンテスの街中を一緒に歩いていた。
「この街も結構変わりましたねー」
と言ったのはファムだ。女の子としか思えない声と喋り方と見た目である。
メイド姿の時は割とファムはよく喋る。
喋っていた方が逆に怪しまれる確率が下がるからだそうだ。
アルカンテスでの情報収集を、以前ファムに頼んでいたことがあったが、その時に比べて結構変わっているのだろう。
当時のアルカンテスがどんな場所か知らないので分からないが。
「リシア、アルカンテスでどこか行ってみたい場所はないか?」
私はリシアにそう尋ねた。
人がいる場所であれば、鑑定はどこでも出来る。
アルカンテスならどこに行ってもある程度人はいるだろうから、別にどこに行っても良かった。どうせなら、リシアの行きたい場所に行った方が良いだろう。
「そうですわね……アルカンテスには大きな植物園があるようで、そこに行ってみたいですわ」
植物園があるというのは初耳だった。
と言うか、この世界にもあったのか。
リシアは花が好きだし、楽しめるかもしれない。
「じゃあ、行ってみるか」
「はい! 楽しみですわ~」
とリシアは少し浮かれた様子になっていた。
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