第248話 宣言

「リオちゃん!!」

「リオ!」


 飼うことになったリオをレンとクライツに会わせると、大層喜んだ。


 リオも嬉しそうに鳴き声を上げながら、二人に駆け寄っていく。


 過ごした時間はあまり長くないとはいえ、すっかり二人に懐いたようだ。


「飼えることになって良かったですね。早速、リオ用の小屋を作らないといけませんね」


 リーツはそう言った。

 キングブルーのリオが、どれだけのペースで成長するのかは分からないが、動物の成長速度は人間より遥かに早いというイメージがある。


 一年くらいで、成長しきっている可能性もある。


「ほ、ほほほほ、本気で飼うの? そいつ?」


 動物が苦手なロセルは、だいぶ嫌がっていた。


「最終的に小屋で飼うことになるだろうから、近寄らなければ大丈夫だ」

「ま、まあ、そうなんだけど……って、うわ! こっちくるな!!」


 なぜかロセルはリオに気に入られてるようだ。見た目が好きなのだろうか?


 何とかロセルは逃げ切った。しばらくはロセルが苦労する姿を見ることになりそうだな。


 それから数日後。


 クランから書状が届いた。



 〇



 カナレ城。

 クランから届いた書状の件について、緊急会議が開かれていた。


 元々カナレ城にいる私やリーツたちに加えて、ランベルクの統治を任せていたミレーユと、彼女に同行していたフジミヤ三兄弟。それから、クメール領主のクラルとトルベキスタ領主のハマンドも来ていた。


 カナレ郡の人材がほとんど一堂に会していた。

 それだけ重要な書状が送られてきたということだ。


「もう一度内容を確認するけど、間違いないかい?」


 ミレーユがリーツに確認した。


「クラン様から、サマフォース帝国からの独立を宣言し、ミーシアン国王の座に就かれるとの書状が届きました。その宣言をアルカンテスで行うので、各郡長はアルカンテスまで来るようにとの指示がありました。宣言は二ヶ月後に行うようです」


 リーツが淡々とした口調で説明する。


 元々クランはミーシアン国王の座に就こうとしていたと言うことは、話には聞いていた。


 しかし、ミーシアン統一に皇帝と皇帝家に忠実な立場のパラダイル州の力を借りたので、今独立国となることを宣言すれば、裏切り者として見られることは間違いない。


 もしかすると、皇帝家の呼びかけで、ミーシアンを討伐する軍隊が編成される恐れもある。

 まあ、皇帝の権力は相当弱くなっており、足元であるアンセル州でさえ、完全に掌握しきれていない様子だ。


 統一されたミーシアンの戦力を考えると、いきなり攻め込まれることはないだろう。

 しかし、ミーシアンにはサイツ州という面倒な敵がいる。

 このタイミングでやるのが正しいのか疑問だ。


「また面倒なこと決めたもんだねぇ」


 ミレーユは呆れたような表情を浮かべている。

 彼女もあまり今回のクランの決定については良く思っていないようだ。


「しかし、何でわざわざ独立の宣言なんてするんですかね。何か狙いがあるんですか?」


 ブラッハムがそう質問をした。


「単純に元から独立したかったというのもあると思うが……狙いとしては統一したばかりのミーシアンの結束を強化する。また、国王を名乗ることでサマフォース大陸外の国と、対等に外交が出来るようになる。戦も仕掛けやすくなる。今まで同じ国だったところが、他国になるわけだから……」


 リーツが質問に答えた。


「デメリットはサマフォース大陸にあるほかの州が、全部敵に回るかもしれないってことと、ミーシアン州内にいる親皇帝派の貴族たちに反感を持たれること……まあ、それに関しては、親皇帝派の貴族のあぶり出しを狙っているのかもしれないけど」

「た、他州を全部敵にするって、結構やばくないですか?」

「そうだね。でも、流石にその辺のことは根回してると思うけど。皇帝の呼びかけで、ミーシアン討伐に動き、それが果たされれば、皇帝の権力が向上する。ミーシアンの領地も直接統治するようになると、単純に戦力も大幅に上がるしね。そうなると、サマフォース帝国が復活することになる。そんなことを望んでない州が大半だし、素直に皇帝家に力を貸すとはとても思えない」


 リーツは情勢をそう考察した。

 確かに、いきなりミーシアン討伐のための連合軍を組まれて、大軍がやってくるなんてことにはならない可能性の方が高そうだ。


「色々考えても時期尚早だと僕は思いますね」

「俺もあんまり良い動きとは思えないな」


 リーツとロセルも今回のクランの動きは評価していないようだ。


「私も確かにおかしいとは思うが……まだ郡長の一人に過ぎない私に、この決定を覆す権力はない。もう決まっているから、書状も出してきたんだろうからな」


 もし私の意見を聞くつもりがあったのなら、事前に相談をしてきただろうが、特になかった。


 ある程度クランから信用は得ているとは思うが、今回のような重大な事柄に関して相談するほど、信頼して貰えていないのだろう。


「ま、結局どうなるかは、クランの政治力次第だねぇ。流石に無策で国王名乗ろうってほど馬鹿じゃないでしょ。問題はカナレが今後どうなるかだね」


 ミレーユがそう言った。


「戦の準備はした方が良いと思う。サイツ州がこれを好機と見て、攻めてくる可能性はあるからね」


 ロセルが意見を言う。

 カナレ郡はサイツ州とミーシアン州の州境にある。

 サイツが攻めてくるのなら、真っ先に狙われる場所だ。


 元々サイツ州の動きには警戒をしていた。軍事力の増強はしていたが、カナレに攻めるような動きは見せていない。


「サイツからすれば、ミーシアンに攻める大義名分を得た形になります。挙兵もしやすいでしょう」


 戦をするのに、大義名分は大事である。

 前回サイツがカナレに侵攻した時は、本当の目的はどうあれ表向きは、同盟者であり、ミーシアンの真の後継者であるバサマークを支援し、不当にミーシアンの領土を治めているクランを退治するという大義名分はあった。


 バサマーク敗戦後は、サイツはクランに次期ミーシアン総督と認める書状と、お詫びの品を送ったようだ。

 一応、現在は敵対はしていないというスタンスを、サイツは取っていた。


 クランが国王を名乗ることで、サイツは裏切り者討伐の大義名分を得て、挙兵がしやすくなるのは間違いない。


「むしろそれが狙い? サイツに攻めさせて、反撃して一気に飲み込もうとクラン様は考えてるのかも。ミーシアン内の貴族たちの中には、まだクラン様に従うことに、消極的な立場をとっている者も多い。危機を煽れば、派兵せざるを得なくなる」

「それは……カナレからすれば迷惑なことこの上ないな」


 ロセルはそう予想した。サイツが攻め込まれるとしたら、間違いなくカナレになるだろう。


「クラン様の考えは、正直よく分かりません。我々も情報が不足しています。ミーシアン州内と、サイツ州の情報はある程度収集しておりますが、パラダイル州、アンセル州の情報に関しては、集められてませんからね。クラン様はその辺の情報も詳しく得ているでしょう」

「それもそうだな……」


 もうちょっとシャドーのような密偵を増やして、サマフォース大陸全土の情報を集める必要性は、今後はありそうだった。


「今後、大規模な戦が起こる可能性がある。今までは経済力を上げることを優先していたが、軍事力の増強を優先しよう。兵の訓練も増やす。それから、城や各砦の増強も行おう。それで良いな?」


 家臣たちの話を受けて、私はそう結論を出した。

 ここ最近の好景気で、税収が大幅に伸び、金はそれなりに貯まってきた。

 今その金を使って、軍事力の強化を行った方が良さそうだ。


 私の方針に異論を唱えるものはいなかった。

 会議は終了した。




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