第215話 傭兵
「アルス、おはようございます」
朝、目覚めた直後、私はリシアにそう囁かれた。
「……おはようリシア」
夫婦になったので、毎日一緒のベッドで寝ているのだが、未だに寝起きにリシアの顔を見ると、ドキッとしてしまう。
リシアは美少女なので仕方ないのだが、いい加減慣れる必要があるな。
その後、私たちは二人で朝食を摂った。
「カナレの街もますます活気づいてきましたわね」
「ああ、私がこの町に初めて来たときとは、大きく変わった」
朝食中、リシアと雑談を交わす。
カナレの様子は毎日見ているが、日に日に活気が増していっているように見えた。
戦が終わったからというだけでなく、内政面で上手くいっているからかもしれない。
リーツの報告によると、新しく家臣になったヴァージは結構いい働きをしているようで、持ち前の口の上手さで、領民たちを上手く説得し、新しい事業を開始しやすくしてくれているらしい。
カナレを発展させるための政策を考えているのは、リーツやロセルたちだ。的確な政策を考えてくれているため、後はそれを上手く実行するだけだったが、まだマルカ人ということで領民の中にもよく思わない者もいるリーツや、口の上手さではまだ未熟なロセルでは、上手くいかないこともあったが、ちょうどヴァージがその欠点を埋めてくれたようだ。
リシアと朝食を摂り終わったら、執務室に向かいつつ色々な報告に目を通す。
悪い報告はほとんどなかった。
人口が増えたとか、景気が良くなっているようだとか、シンからの研究も順調に進んでいるようだとか。
その中で、一つ気になる報告があった。
「サイツに不審な動きあり……」
ファムからの報告だった。
一度カナレに攻めてきたサイツ州だ。戦力をだいぶ消耗しているとはいえ、警戒は怠ることは出来ない。
そのため、シャドーを派遣し、情報などを逐一報告してもらっていた。
報告によると、サイツは武器の製造量を増産したり、ほかの州から魔力水を買ったりと、戦力の増強を始めているらしい。
前回の戦では大敗を喫したのに、また懲りずに攻めてくる気だろうか? それとも、ミーシアン統一がなされたので、逆に侵略されるのを警戒して戦力増強を早めているのだろうか。
恐らく後者の確率の方が高いと思うけど、でも確信は出来ないな。
戦後、カナレはあまり軍事力強化はしていなかった。
サイツはしばらく脅威ではないと、経済発展や飛行船開発の方に資金を投入してきた。だが、そろそろサイツへの警戒を高めて、軍事力を強化すべき時が来たかもしれない。
リーツたちに相談しないとな……
私がそう考えていると、ちょうどリーツが執務室に報告にやってきた。
「おはようございますアルス様。実はお耳に入れたいお話がありまして」
リーツは少し慌てた様子だった。
相談したいと思っていたが、今は止めてリーツの話を聞くか。
「実は傭兵団がこの町を訪れておりまして、ローベント家と契約をしたいと申し出てきております」
「傭兵団……それはシャドーの様な者たちではなく、兵力として戦ってくれる傭兵ということで間違いないな」
「はい。中規模な傭兵団で、団員の数は二百程度です。あまり有名ではないので実力に関しては僕には分からないのですが、アルス様なら見抜くのは容易いと思われます」
丁度軍を強化しようと考えていた時に、傭兵団が訪れるとは。ちょうどいいと言えばちょうどいいタイミングだ。
「シャドーの報告にはすでにお目を通されましたか?」
リーツが尋ねてきた。
「ああ。サイツで妙な動きがあるらしいとか」
「はい。妙な動きというだけで攻めてくるとは限りませんが、いざという時のために備えはしておくべきでしょう。カナレでは人口も増加し、兵力もそれに伴い増えておりますが、それでも十分な軍事力があるとは言い難いです」
どうやら私が相談しようと思っていたことは、リーツも考えていたみたいだ。
「私も戦力の増強は必要だと思っていた。その傭兵団にまず会って雇うかどうか決めるか」
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