第204話 成果
「金が入ったってのはほんまか!?」
シンは来るなり、目をキラキラと輝かせてそう言ってきた。
金を待ち望んでいたのが、よくわかる態度である。
「戦功を立てたのでな」
「いやぁ。もしかしたら、めちゃくちゃ凄い人なんかもなアルス様は」
シンは非常に感心したような様子でいった。
「金を貰う前に、一度途中までだけど研究の成果を見てもらいたいんやけどよろしいか?」
「飛行船の研究は順調に進んでいるのか?」
「必要な研究資金の3分の1だけ先にもろたから、その金を使うて結構進めてんねん。その成果を見れば、さらに金を上乗せしてくると思うてな」
どうやら相当金を欲しているようだ。
まあ、シンは飛行船の開発以外には、あまり興味を持っていない男のようだ。
無駄使いはしないだろうし、金を多めに払っても問題はないだろう。
元々報酬としてもらった金を全額シンへの投資に使うわけではなかった。
今回戦功としてもらった金額は、金貨九百枚だ。
非常に多い。クランは太っ腹である。
飛行船開発に必要な金貨の額は推定千枚。
戦功として得た金を全額払えば千枚より多くなる。
予算は戦功として貰った金貨だけでなく、税として得た分も使えるので、シンヘの配分を増やしても問題はないだろう。
「分かった。金を上乗せできるとは約束はできないが、成果があるのなら見せてもらいたい」
「報酬の上乗せに関しては、見て判断してくれればええで。ほな行きましょかー」
シンの研究の成果を見ることになった。
私の他に、リーツ、ロセル、リシアそれから面白そうだからという理由でシャーロットも付いてきた。彼女に強制的に連れてこられたムーシャもいる。
シンの案内に従って向かった先は、町外れの草原だった。
何やら数人がかりで準備を行なっている。
ヨットくらいの大きさの小さな船が置いてあった。
「あれは……?」
「小型の飛行船や。アルス様からの書状をもろて飛ばす準備させとったんや。開発はわし一人では難しいから、最初にもろた金で、何人か人を雇ったんや」
「飛ぶのかあれが」
「飛ぶで。まあ、あれは小型やから、あれ単体ではそこまで役には立たん。わしの目標は大型の飛行船の開発や」
迷いなくシンは飛ぶと言った。
飛行船の用途は、貿易や戦と色々あるだろうが、確かにあのくらいに小型だと、中々役には立てないかもしれない。
高度がどのくらいかは分からないけど、高く飛べれば戦ではかなり役立てられるだろうけど。
シンは自ら飛行船に乗った。
自分で乗るのか。墜落したら死んでしまうか、大怪我を負うのは避けられないだろう。
絶対に墜落する事はないという、自信があるのだろうか。
船の上でシンが何やら操作を始める。
すると、フワリと浮き上がった。
ただ浮かび上がるだけではなく、それから船は自由に空を飛び回る。
私は唖然としてその様子を見ていた。
リーツも同じく、言葉をなくして飛行船を眺めている。
「す、凄いですわ」
隣で見ていたリシアは思わずそう呟いていた。
ロセルは何やらぶつぶつと呟いている。
どういう理屈で空を飛んでいるのか、考えているのだろう。
「乗りたい、乗りたい。ムーシャ一緒に乗ろう」
「こ、怖いですよ、落ちないですかあれ?」
シャーロットは目を輝かせてそう言っていたが、ムーシャは逆に恐れているようだった。
しかし、本当に飛んだな。
鑑定スキルの力でシンを見て、才能があるだろうとは分かっていたが、それでも飛行船が実際に飛んでいる光景を見ると、驚いた。
見たところ速さはそこまではないようだ。
さらに、高度もあまり出てはいない。
それでも、飛んでいる。
これは大きな開発だ。
まだまだ開発途中だから、速度や高度もこれから進歩していくだろう。
シンが船を着陸させる。
船から降りて、私たちのいる場所に向かって、駆け足でやってきた。
「どや見たか!」
渾身のどや顔を浮かべていた。
「これどうやって飛んでいるんですか?」
ロセルが質問した。
シンが説明する。
正直、私の頭では理解できない部分も多かったが、どうやら風の魔力石の力を使っているようだ。
風の魔力石は、サマフォース大陸北側で大量に取れる、比較的ポピュラーな魔力石だ。ミーシアンではほとんど取れない。風魔法は炎魔法より戦では使えず、大量に仕入れるのも難しいのでミーシアンではあまり用いられない。
シンの話によると、特殊な機材を使って風の魔力石の力を引き出して、浮力を発生させるらしい。
魔力石を魔力水には変化させず、そのまま使用する。
魔法を使うときの原理とはちょっと違うようだが、魔力石が持っている力を利用するという点は一緒のようだ。正直、もうちょっとここら辺は勉強したほうがいいな。
船を浮かせた後、それを動かすのには、風の魔力水の力を使った特殊な機材を用いているとか。
浮力を発生させるのは風の魔力石で、推進力を発生させるのは風の魔力水と少しややこしい。
「この機材も自分で思いついて作ったのか?」
「……完全に自分の頭で生み出した理論……と言いたいところやけど、実は帝都にいる偉い魔法研究者先生の知恵から着想を得とる。魔法を使う際、触媒機を用いる。これは色んな属性の魔法を使用可能やけど、あまり効率的には使えてへんらしい。その研究者さんが言うには、属性に特化した触媒機を作れば、ほかの属性の魔法が使用不可能になる代わりに、魔法を使用する際の魔力水の消費も少なって、さらに使える魔法の種類も増やせるらしいんや」
シンが説明すると、ロセルが魔法研究者を知っていたのか口を挟む。
「あ、俺も知ってるその人。ハイネス・ブラウンさんですよね」
「おー、ハイネスさんや。でも、ハイネスさんはもう帝都から追放されてもうたから、その理論は結局あんまり有名にならんかったのに、何で知ってるん?」
「え? 追放されてたんですか? いや、本で読んだからなんですけど……なぜ追放されたんですか?」
「変人やったからや」
そんな理由で追放されるのか。
追放されるほどということは、よほどの変人なのだろうな……
だが、きちんとシンが飛行船を作り上げたということは、そのハイネスさんの理論は正しかったということだろう。
もし偶然このカナレに来ていたら、家臣にしたいけど中々そんな偶然は起こらないだろう。
「今後はもっと大きい飛行船を開発していくつもりや。出来れば金貨増やしてもらえると、開発も捗るんやが、どうや?」
シンは尋ねてきた。
私はリーツと少し話し合う。
「どうする?」
「良いと思いますよ。彼の研究には賭けて見る価値はあると思います」
「そうだな……」
リーツの意見を聞いて私は決めた。
「分かった。金額を増額しよう」
「おおきに! 急ピッチで完成させたりますわ!」
これで飛行船の完成も早まったと期待しておこう。
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