第196話 バサマークの最期

 その後、クメール砦にクランから援軍が送られてきた。


 私は戦況を伝えたので、そこまで大軍は必要ないだろうと判断したのか、大勢は来なかった。


 クランは、ベルツド攻めに失敗し、大勢の兵を失ったバサマークがいる、アルカンテス城をパラダイル州の兵とともに、完全に包囲したようだ。


 クランの動きは非常に速く、本当に撃退してすぐに動いたようだ。


 今がチャンスと判断したら、すぐにこう出来る器量をクランは持っているようだった。


 私は、クランがアルカンテスを包囲している間、アルカンテス攻めには参加せず、サイツの動きに目を光らせていた。また来られると面倒だから見張っておけと、クランの指示があったからだ。


 攻めてこようという動きはなかった。まあ、もう来ないだろう。


 元々カナレは州境にあるので、警戒を完全に解くことは不可能ではあるが、少し緩めた。


 個人的に、しばらく戦はしたくないので、割とのんびり過ごせて楽ではあった。


 アルカンテスの戦だが、バサマークは粘ったようだが、どう考えてもひっくり返せるような戦況ではない。


 アルカンテス城付近の城も全てクランが押さえ、味方はもう完全におらず、孤立無援状態。


 結局、バサマークの抵抗虚しく、アルカンテス城は陥落した。


 陥落したのは、バサマークのベルツド攻めが失敗に終わった、三ヶ月後の六月十五日。冬の日。アルカンテスは陥落し、ミーシアンはクランの下に統一された。


 戦争終結を祝い、アルカンテス城で祝宴が開催されるというので、私はそこに向かうことになった。


 護衛の兵を引き連れて、アルカンテスに向かう。


 護衛といってもリーツなどを連れて行くわけではない。


 やはりまだサイツへの警戒は、完全には怠れないので、リーツやシャーロットにはいてもらわないと困る。


 今回ついてきたのは、ブラッハムとザットなどの精鋭兵だ。

 

 数も百人程度である。


 このくらいならいなくても何とかなる。


 ブラッハムとザットは強いので、護衛にはもってこいの人材だ。 


 カナレからアルカンテスは、馬車を走らせて往復で三十日くらい離れている。


 順調に進み、六月三十日に、アルカンテスに到着した。


 初めてアルカンテスに来たのだが、州都ということもあり、かなり規模は大きかった。


 都市の象徴であるアルカンテス城は、非常に巨大だった。

 流石に、帝都の皇帝がいる城に比べると、規模は小さかったが。


 すごい都市ではあるのだろうが、街の活発さという意味では、センプラーの方が上のような気がする。


 センプラーは港町だし、経済的には発展しやすい場所だ。


 経済力的には、アルカンテスよりセンプラーの方が上なのだろう。


 城にて祝宴が開催される前に、敵の首謀者であるバサマークに、刑を執行するらしい。


 私は当初、流石に弟だから殺しはしないだろうと思っていたが、それは甘い考えだった。


 クランはバサマークを許さず、処刑すると決定した。


 家族といえど、反乱を起こすような存在は看過できないのだろう。


 いや、むしろ家族だから、見過ごせないのか。


 血を分けた存在だからこそ、ミーシアン総督の座を狙うことが、バサマークには生きている限り、出来てしまう。


 殺すのが一番確実な方法だった。


 処刑方法は、斬首である。


 巨大な斧で首を切る。この世界では、一番一般的な処刑方法だ。


 見せしめのためになら、炎で焼いたり、体を引き裂いたりと、もっと残酷な刑も行うことがあるのだが、流石に弟にそこまできつい刑はできないようだ。


 バサマークの処刑は、アルカンテス城前の広場で行われた。


 予告していたので、大勢の人間が集まっている。


 私は見るかどうか悩んだのだが、戦っていた敵の親玉の最後というのは、見届けるべきだと思い見ることに。


 そもそも、バサマークの顔を見たことがなかったので、一度見てみたいと思っていたのもある。


 鑑定はしない。


 今から死ぬ人物を鑑定しても意味はない。有能だったら惜しくなるだけだ。そして恐らくバサマークは有能な人物なのだろう。


 処刑台の上にバサマークが上がる。


 初めてみたが、見た目はあまりクランには似ていない。


 髪の毛は黒いし、顔もクランほど整っているわけではない。


 彼の表情に怯えの色はなかった。

 自分の運命を受け入れ、悟り切っているように見えた。


 バサマークは大きく息を吸い、そして叫んだ。


「貴様らに予言しておく! ミーシアンはいずれ分裂する! 私を殺しても意味はない! クランに、人の上に立つ資格などない!」


 負け惜しみでそう言っているのだと私は思った。


 クランははっきり言って有能だし、立派なリーダーである。人の上に立つ資格がないなど、とてもそうは思えない。


「こいつの本性は私が一番よく知ってる! 器の狭い卑しい男だ! いずれ家臣からの信を失っていくだろう! 私にはその光景が目に浮かぶようだ!」


 クランはバサマークの叫びを無言で聞いていた。

 特に慌てたりリアクションを取ったりはしない。


 バサマークの叫び声を真面目に聞くものなど、どこにもいないと思っているのか、それとも的外れなことすぎて、どうでもいいと思っているのか。


 とにかく、バサマークの叫び声は、クランの心には響いていないようだった。


 クランは、手を空に向かって掲げる。


 それと同時に、斧を持った処刑人も、斧を掲げた。


 そして、クランが手を振り下ろす。


 斧はバサマークの首に向かって振り下ろされ、血飛沫と共にバサマークの首が宙に舞って、地面にころりと落っこちた。


 ミーシアン総督の次男、バサマーク・サレマキアの人生は、その日幕を閉じた。

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