第109話 進化

「そろそろ返答がくる頃だな。アルス、リューパは寝返ると思うか?」

「説得に、手ごたえは感じております」


 調略してから二日後。

 クランに尋ねられたのでそう答えた。


 この間の交渉には割と手ごたえは感じていた。

 上手く鑑定スキルで、敵の野心の高さや性格を見抜いて、それに応じた説得が出来たと思う。


 最後どうするかは、分からないが決して可能性がないとは思わない。


「クラン様! リューパ殿の使者が参られました!」


 伝令兵がクランにそう報告した。


「よし、通せ」


 クランの指示で、使者が目前に通された。


「お目通しいただき感謝いたします。言伝を預かっておりますので、お伝えいたします」


 使者はそう言って、リューパからの言伝を言い始めた。

 成功か、失敗か、少しドキドキしてきた。


「今回のお話を受け、大いに悩みました。ベルツド郡長のカンセス様にも、大きな恩があるなれど、元々バサマーク様より、長男であるクラン様にこそ後継ぎとしての正当性があると思っていたのも事実であります。今回、説得を受け、自分なりに悩んだ結果、恩はあれどこのまま捨て石になるのは、家臣や家族たちの事を考えると、許容は出来ぬと考えクラン様に付くと結論を出しました。バルドセン砦はクラン様に明け渡す所存であります」


 成功したようで私は一安心する。


「よし! 時間と兵をなるべく割かずに、敵の城を落とすことが出来たか。此度の戦は本当に順調に進んでおるな。アルスよ、またも大手柄であるぞ」

「いえ、私の功績など小さきものでございます」

「ハハハ、謙遜するでない。よし、ではバルドセン砦に入るぞ!」


 クランは上機嫌でそう言った。


 その後、兵を引き連れバルドセン砦に向かう。


 罠の可能性もあるので慎重に行動する。

 砦の門は開く。


 入り口には、武装解除した兵士と共に、リューパが平伏していた。


 降伏したというのを態度で示していた。


「よくぞお越しくださいました。私、リューパ・ルーズトンは家臣たちと共に、クラン様の軍勢に加わる所存でございます」


 平伏したままリューパは宣言した。


 クランは馬に乗っており、そのまま降りることなく、


「面を上げよ」


 とそう言った。

 リューパを含め兵士たちが、一斉に顔を上げる。


「これからお主たちは私の軍勢に入る。共にベルツドを攻め落とした後、逆賊バサマークを滅ぼすのだ」


 クランがそう言うと、再びリューパは平伏し、


「力の限りをお尽くしいたします」


 そう宣言した。


 それから罠であるという様子はなく、城は無事に明け渡された。



 〇



 調略を終えた後、調略の成功と、新しく軍に加わったリューパを歓迎するための宴が開かれた。


 私は家臣たちと集まって、食事をしながら話をしていた。


「今回はお手柄でしたね。アルス様」


 リーツがそう言ってきた。


「多少は評価が上がったかもな。しかし、今回の戦は本当に有利に進んでいくな」


 今のところ被害少なく連戦連勝。敵は被害を受けてあっさりとやられ続けていっている。元々数で勝っていて有利な状況だったのに、今の状況は正直楽勝ムードが漂っていた。


「油断したら駄目だよ。本当の戦いはこれからなんだから。これ以上敵も進軍を許したらいけないから、死に物狂いで守りに来るよ。次辺り本格的に大きな戦になりそうだと思う」


 ロセルが気を引き締めるようにそう言った。


「まあ、戦いって奴は、それまで何連勝していても、負けてはいけない戦で負けたら、その時点で負けが決まるもんだからね。これからやるのがその絶対に負けてはいけない戦になる」


 ミレーユは油断していないような事を言うが、相変わらず酒を浴びるように飲んでいるので、どっちか分からない。


 大きな戦になるという事は、下手したら死ぬ可能性もあると言う事か。


 こんな歳ではまだ死ねない。

 何としてでも討ち死にだけは避けねばな。


 それから私は新しく陣門に加わったリューパの家臣たちを鑑定してみた。

 自分の家臣に勧誘は出来ないだろうからやる必要はないかもしれないが、まあ、何となくだな。


「ん?」


 いつも通り鑑定したのだが、いつもと違うところがあった。


 名前性別年齢、ステータス、適性と表示されるのはいつも通りだが、その下に、今までにはなかった表記があった。


 帝国歴百八十三年十一月二十日、サマフォース帝国ミーシアン州ベルツド郡ミラストで誕生する。兄が二人。妹が一人。父親と母親はどちらも健在。短気な性格。干し肉が好物。乗馬が趣味。四十代を超えた女性が好み。主であるリューパの事は、とても信頼している。


 個人情報的なことが一気に表示された。

 ほかの者を鑑定しても同じ結果が出た。


 今まで一切成長が無かった鑑定スキルが、ついに進化した。


 何で今更進化したんだ?


 使った数か、自身の年齢か、それとも能力を活かして説得して調略を成功させたからだとか。

 なんの前触れもなく進化したから、理由はまるで分からないな。


 ただこれで、さらに深く情報を得ることが出来るようになった。

 それこそ調略なんかは、やりやすくなったかもしれない。

 ……まあ、普通他人に知られてないであろうことを、知ってしまう事があるだろうから、不気味に思われる可能性もあるがな。

 使い方は間違わないようにしよう。


 あと、家臣たちに使っていいのか悩む。

 主に対しての感情が最後に書いてある。

 これは見ていいのだろうか。プライバシーの侵害のような……


 でも、家臣たちの本心を知れるのは、悪くないからな……

 領主としては知っておいた方がいいかもしれない。

 ちょっと良心が咎めたが、私は進化した鑑定スキルを家臣たちに使ってみた。


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