第103話 ミレーユの弟

「はー、いい運動をした」


 ミレーユが出撃をした後、帰ってきて酒を浴びるように飲み始めた。


 かすり傷を負ってはいるが、大怪我はしていないようだ。


「あまり無茶はしてくれるなよ」

「無茶なもんかね。アタシがこんなところで死ぬわきゃないんだから。リーツも一緒に来ればよかったのにな」

「そうですね……僕もそろそろ戦いたいのですが」


 案外リーツも武闘派な一面を持っているようだった。


「今回はわたしも戦えなかった。もっと強い敵と戦いたい」


 シャーロットも不満を漏らす。

 何というか武勇高い勢は、戦う事が基本的に好きなようだな。


「まあ、今回は雑魚しか倒せなかったがね。次はもっと大物を討ち取りたい」


 また行く気なのか……


「そうそう、実はいい情報をさっき投降した兵から聞いたんだよ。何やらアタシの弟が、バサマークから派遣されてベルツドに入ったらしいね」

「弟?」

「ああ、バサマークに仕えている奴なんだが。あんまり出来は良くないんだけど、一応アタシの弟という事もあって、そこいらの雑魚よりかは実力はある。ベルツドは簡単に落とせないかもね。面白くなってきた」


 何やら嬉しそうにミレーユは話す。


「弟と戦う事になってやけに嬉しそうだな。普通逆の反応になるんじゃないか?」

「逆の反応? なぜ?」

「いや、普通弟と戦いたくないと思わないか?」

「あー、そうね。昔は仲良かった時期もあったけどね。今はそうでもないし。別に殺すことになっても特に問題はない」


 特に強がっている様子もなくミレーユはそう言った。

 肉親に対しての情などは、ほとんど感じていないようだ。


 ミレーユの考え方は、やはり普通ではないなと思い知らされた。


「先生の弟ってどんな人なんですか?」


 ロセルがミレーユにそう尋ねた。


 私がいない間にロセルはミレーユを先生と呼ぶようになっていた。


「どんな奴? そうだねぇ。昔は頭の悪い馬鹿な子だったが、年を取ったら少しはマシになってきたかな。今はバサマークの右腕になっているって風の噂で聞いたことはあるけどね」

「じゃあ、結構凄いんですか?」

「どうかね。その辺の凡人よりはマシってのは間違いないだろうけど」


 ミレーユは弟を有能と思っているのか無能と思っているのかいまいち分からないな。

 ただバサマークがわざわざベルツドまで寄越したという事は、無能でないことは明らかだろう。

 仮に無能だとしたら、バサマークの見る目がなさすぎるのだろうな。


 とにかく次のベルツドは、人材、兵数、城の堅牢さ、全てにおいてサムク城を上回っていると思われる。


 兵数はこちらが上とはいえ、そう簡単に攻め落とすのは難しいだろう。

 サムクが予想以上に簡単に落とせたからと言って、油断してはいけない。 

 もっと策を練って準備を怠らずに侵攻しないといけないだろうな。


 その後、クランが家臣たちを集めて、ベルツドを攻め落とす戦略を決めるための軍議を始めた。

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