第82話 情報

 シンを勧誘した後二日間、人材探しを引き続き行っていたが、発見することは出来なかった。


 そして、ロビンソンからパラダイル州で情報収集をさせていた密偵が帝都に来たと連絡があった。


 これから交渉内容を決める話し合いを行うようなので、私はリシアと共にロビンソンが宿泊している部屋へと向かった。

 私たちの宿泊場所は、帝都の高級宿だ。レングが来るという事で、貸し切りである。


「よく来てくださいました」


 部屋に入るとロビンソンが出迎えてくれた。


 中にはロビンソン以外誰も居ない。


「いえ、当然です。ところでレング様とテクナド様はまだいらしていないのですか?」

「お二方は今回の話し合いには参加いたしません」


 そうなのか。

 テクナドは分かるが、レングは話し合いの場にはいるはずだと思っていた。


 本人がやりたくないのだろうか?

 それとも、こういう話し合いをする場にいたら、邪魔になりかねないからロビンソンがあえて呼ばなかったのだろうか?


 どっちにしろいなくても問題はないか。


「話し合いの前に一つ報告を。実はミーシアンで戦が始まったようです」

「え? もう戦が始まったんですか?」

「そのようです。まずクラン様がベルツドの手前にある郡、アルファーダ郡の侵攻に動いたようです。一方バサマークはファーマ郡のルドーソンを奇襲して落としたようです。ルドーソンには大きな魔力石鉱山があり、重要な地域です。恐らく敵の戦略はこちらの重要資源がある場所を少数の兵で落としていき、兵をなるべく失わせずにこちらの資源を削って弱体化を図るという戦略を取っているようです。向こうには奇襲の上手な知将がおりますので、中々厄介なことになりました」


 戦が始まったか。

 しかも敵の戦略は中々いやらしい。長期戦になればこちらの不利というわけだ。


「それでは本題と参りましょう。まずはパラダイル州についての基礎情報をお話しします。サマフォース七州の中ではもっとも人口と領地の少ない州ですね。その上、ほぼすべての州と隣接しているため、敵に狙われやすい立地でもあります。

 この州が侵略されずに領土を保っている理由は複数あります。一つ目はパラダイル州の北西と西、シューツ州とキャンシープ州の州境にラフォード山脈があるからでしょう。この山脈のおかげで、シューツ州とキャンシープ州は、パラダイル州への侵攻が困難となっております。

 もう一つの理由は、兵自体が強力であるという点でしょう。兵の練度が高い上、パラダイル州しか使えない回復魔法が強力で、兵数は劣りますが決してほかの州に兵力で大きく引けを取りません」


 地図で見ると本当にど真ん中にあるので、何で侵略されないのか疑問だったが地形と兵の強さが理由だったのか。


「密偵から得た情報によると、現在パラダイル州は色々と問題を抱えていると。最近不作続きで食料の生産力が落ちている。シューツ州と関係が悪化しており、シューツ州は山脈を超えてパラダイル州を落とす方法を探している。シューツ州にとっては、パラダイルは全州へと睨みを利かせられる州であり、さらに回復の魔力石の鉱山があるため、喉から手が出るほど欲しいようです。その回復の魔力石の産出量が年々減っていっている、ですね」

「結構問題だらけですね。これは好都合なのでは? 特にシューツ州との関係悪化は問題でしょう。ミーシアンと敵対した状態で、シューツと戦うことになると、二方向から同時に攻められる可能性がありますよ」


 いくら兵が強くても、そうなるとパラダイル州も侵略されてしまう危険性があるだろう。


「はい。向こうとしてもこちらと手を組むメリットはあります。シューツ州単独で落とすのは難しくとも、ミーシアンと協力して攻められたら落とされる可能性があります。食料もミーシアンは豊富にあるので、支援が可能です。正直デメリットの方が少ないので、総督がまともな方なら、組むことを選択すると思いますが……」

「……まともではないのですか?」

「ええ、どうやら現パラダイル州総督は、あまり外交上手な方ではないようで、元々シューツ州は、パラダイル州と同盟を結ぼうとしていたそうです。同盟を結び、パラダイル領を通過できるようになれば、ほかの州へ睨みを利かせられるという効果は得られます。回復の魔力石は他家には出さないという方針をパラダイル州は取っているため、回復の魔力石は手に入れることは出来ないでしょうが、パラダイルの兵に協力を得られればわざわざ自分たちの物にする必要もありません。

 以上の理由からシューツ州は最初同盟を結べばいいと思っていたようですが、パラダイル州総督がこの話を破綻させます。それがどうも感情的な理由で、損得での判断ではなかったようです。パラダイル州としてもシューツ州を敵に回して得など一切ありませんので、この外交は完全に失敗であると言っていいでしょう」


 感情で外交をするタイプか……

 そうなると、失敗しそうな気がしてきた。

 ミーシアンはもっとも悪感情を持たれているだろうからな。


「それ以外にも、ミーシアンを嫌っているのは総督家だけでなく民衆からも嫌われているという問題があります。戦いの際、兵の士気が下がる恐れがありますね」


 ロビンソンの情報はこれで以上のようだ。


「この情報を踏まえて、どう交渉すればよいのか話し合いましょう」



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