第81話 シン

 土下座までして必死に懇願するシンであったが、残念ながら受け入れられず金持ちそうな男は去っていった。


「くそっ!」


 シンは立ち上がり、地団駄を踏みながら叫ぶ。


 すると、こちらの視線に気づき、


「何やガキ! 見せものちゃうぞコラ!!」


 こちらを睨みつけてきた。

 確かに土下座する姿をじろじろ見るというのは、非礼であったな。


「済まない怒らせるつもりはなかったんだ」

「じゃあ、さっさとどっか行けや!」


 かなり気が立っているな。

 土下座までして断られたのだから無理もないか。


 これ以上話をするのは難しい状況かもしれないが、ここで別れたら次会えるのか分からない。話をしてみよう。


「いや、それは出来ない。ちょっと話したいことがあるのだ」

「話したい事ぉ?」


 シンは私を睨んできた。


「アルス様、この方には何らかの才能があるのですか?」

「はい」


 私は頷いた。


「こいつ、魔法使えるの?」

「いや、魔法もある程度使えるが、この者にあるのは違う才能だ」

「何だ。じゃあいらない」


 凄く失礼なことをシャーロットは口にする。


「誰の顔見ていらんて言うとるんやこの女は。己らわしをおちょくっとるんか?」

「違う違う。シャーロットしばらく黙っていろ。私はアルス・ローベント、ミーシアンのカナレ郡ランベルクから来た」

「ミーシアン? 道理で変な喋り方してる思うたわい」


 こちらから見ればシンの方が変なのだが、まあ、向こうから見れば私の喋り方の方が変なのだろう。


「あなたはシン・セイマーロという名前だな?」

「な、なんでわしの名を知っとるんや」


 鑑定スキルで調べたのだが、ここは門の前で一度会っており、デンから名前は聞いたと説明をする。


「あの時、執事と一緒におった奴か……何となく見覚えがある気がしてたが……」

「それであなたが飛行船を作っているということで、興味を持ったのだ。実は私はミーシアンで貴族の当主である」

「貴族? 当主? まだ己は子供やないか」

「親を早くに亡くしたので、継ぐ事になったのだ」

「……ここの皇帝みたいなもんか。てかさっき己はわしの飛行船に興味あるゆうたか?」

「ああ」

「ほ、ほんまかいな! じゃあまずはこれを見るんや!」


 と飛行船の設計図を押し付けてきた。

 見ても分からないと思うのだが……

 一応見てみるが、これが飛ぶのかどうかなど当然のことながらまるで分からない。ただ地球にある飛行船とは全く違う原理で動きそうだとは分かった。どうも魔法に関連する何かが動力として使われているようである。


「どうや? これなら絶対に作れるやろ!」

「いや、飛行船には詳しくないから、これを見ても分からないのだが……」

「何や詳しいわけちゃうんかい。じゃあ返せ」


 設計図を取る。


「詳しくなくても飛行船には興味がある」

「まあ、誰もが憧れる夢の乗り物やしな」

「知識はないからその設計図が正しいのかは分からないが、あなたには飛行船を作る才能があると私は思っている」

「何やと? 何でそんなことがわかるんや」


 私は自分には人の才を測る力があるということを説明する。


「あなたには飛行船を作れる才があるかもしれない」

「なるほど……このわしの才能を見抜いたことから、己の力は本物やと見てええやろうな」


 いきなりは信じないだろうと思っていたが、信じた。

 よほど自分の能力に自信があるのだろうか。


「さっき貴族の当主言いよったな……も、もしかして金を出してくれるんか!? 実はわしは作れるとは思うんやが、金が全くなくて困っとるんや!」

「いくら必要なんだ?」

「金貨千枚くらいあれば、小型の飛行船が作れるはずや!」

「千枚は……現時点では用意できないな」


 クランに頼めば出してくれるかもしれないが……そうなると失敗したときのリスクが大きくなるからな。成功確率は決して低くないと思うが、確実に飛行船が作れるとも言い切れないしな。


 あくまでカナレ郡を貰ったあとに作りたい。


「今ミーシアンで戦が起こりそうになっているのだが、その戦に勝てば領地が大きくなりそうなのだ。その時に収入もある程度増えるだろうから、千枚用意できるようになるかもしれない。そうなったらあなたが飛行船を作れるということに賭けて、金を出してやってもいい」

「ほ、ほんまか!? そうなると結構待たないとあかんのか。というか、わしはそうなるとミーシアンまで行かなあかんのか?」

「もちろんだ」

「うーん……」


 シンは悩んでいる。


「今すぐ結論を出す必要はない。もうしばらくはここにいるからな」


 私がそういうと、シンは悩むのをやめて、


「いや、行く。ここではどんだけ頑張ってもどうせ金を出す奴なんておらへん。全員目が節穴なんや。己についていくしか、わしの夢を叶える方法はなさそうや」


 すぐに結論を出した。


「そうか、ではミーシアンに帰るときには一緒に来てくれ。居場所を事前に聞いておこう」


 私はシンの家の場所を聞いた後、旅の準備をしておくように言って、シンと別れた。


 飛行船を作成できるかもしれない人材の勧誘に成功した。


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