第77話 帝都
「ここが帝都か……」
舟が港に到着し、私は甲板に出て帝都を見た。
少しミーシアンとは作りの違う建物が、立ち並んでいる。
センプラーよりも町の規模は大きそうと感じた。
一番目立つのは、奥にある巨大な城である。
今まで見た城の中で一番大きい。
同じサマフォース帝国とはいえ、元は別の国だったためそれなりに違いはあるようだ。
そういえば、州が変われば言葉も変わるということを聞いたことがある。
帝都にいる人たちとは、言葉が通じるのだろうか?
ロビンソンが知っていそうなので尋ねてみた。
「言葉は通じますよ。少し違いはありますが、意思疎通をするのには問題はないと思います。全く違う言葉を話す州もありますが、貴族レベルなら言葉は通じると考えていいです」
少し違うという事は方言みたいな違いがあるということか?
まあ、通じるなら別にいいか。
私たちは船の下に降りる。
「久しぶりに陸地にあがると、逆に変な気分になりますわね」
リシアが陸地に降りてそう感想を言った。
舟に長時間乗って地上に降り立つと、逆に揺れていないことに違和感を持つようになるものだ。
「お待ちしておりました。レング・サレマキア殿とテクナド・サレマキア殿その従者の方々ですね。帝都ランバスまでよく参られました。あなた様を皇帝家をあげて歓迎いたします」
一番最初にレングが地上に降りており、そのレングに向かって髪の長い長身の男が、綺麗なお辞儀をしながらそう言った。
彼は執事服を身に着けており、後ろには彼と同じように正装をした人たちが並んでいる。
話している言葉に違いはないが、イントネーションが違う。
ミーシアンに合わせて喋っているが、元の言葉のイントネーションが若干出ているという感じだ。
この人たちは皇帝家からの出迎えだろうか。
準備期間中に事前に許可を得ていたのだろうから、我々が帝都を訪れるということは知っていたのだろう。
何となく有能そうな人物だと思って、私は一番前にいる長身の男を鑑定してみたが、特に突出した能力はなさそうだった。
名前はデン・マルティネスというらしい。
レングがどう返答するか、偉そうにしないか少し心配だったが、普通に礼儀正しく返答をしていた。
流石に最低限の礼儀もなっていないものを、皇帝との交渉に行かせるなんてことはしないか。
「私はデン・マルティネスと申します。皇帝陛下の執事をやっております。早速御城へご案内いたします」
私たちはデンの案内についていき、城へと向かった。
帝都をだいぶ歩いたのだが、町並みはあまり良くなかった。
道は汚いし、物乞いが結構いる。
あまり民に金が入っていないのだと思った。
しかし、海上都市なら経済的には豊かになれそうではあるが、皇帝家は金に困っているというし、その上帝都はこの状況だ。
皇帝に浪費癖があるのかそれとも、金儲けがあまり得意ではないのか、もしくはその両方か。
城は近付くとさらに大きく感じた。
名前はランバス城という。
城の門前まで行く。
すると、門番と小柄な男が言い争いをしていた。
「だから駄目や言うとるやろ!」
「そこを何とか! 友達やないか!」
帝都独特の話し言葉で言い争っていた。
「いつお前と友達になったんや。とにかくここは絶対に通さへん」
「わしの飛行船の理論は間違ってないはずなんや。この設計図通りに作れば確実に作れるはずなんや。通してくれ!」
男は巻かれた紙を手にしている。
「ようわからんが、とにかくお前が来ても絶対に通すなって言われてんねん。はよ帰れ」
飛行船? 設計図?
気になる言葉である。
空軍適性が私の鑑定スキルを使ったら出るのだが、今まで一度も空を飛ぶ軍隊について耳にした覚えはない。
気になってはいたのだが、分からないから考えるのはやめていた。
もしかしたら、まだ作られていない飛行船をこの男は作ろうとしているのか?
何となく気になったので、鑑定をしてみた。
シン・セイマーロ 17歳 ♂
・ステータス
統率 22/66
武勇 25/78
知略 88/89
政治 32/74
野心 45
・適性
歩兵 D
騎兵 D
弓兵 A
魔法兵 B
築城 D
兵器 S
水軍 D
空軍 S
計略 C
名前はシン・セイマーロ、17歳とまだ若い。
ステータスは結構有能である。
知略が高い。
問題は適性のほうだ。
兵器と空軍がどちらもSだ。
「またあなたですか」
「ゲッ」
デンがシンに話しかける。
まずいという表情をシンは浮かべ、そそくさと門の前を去っていった。
「あの男は?」
レングが尋ねた。
「シンという男です。自分の作った設計図通りに作れば、飛行船が出来る、金と人を貸してくれ、と言っているのですが、まあ、育ちも悪いし、貧民なので相手にしておりません。それなのに何度も門の前に来てですね。まだ若造なので処刑するのは可哀そうやと思うのですが……」
「ふむ。飛行船は父上も確か研究させておりましたが、まだまだ作れるのは先になると言われております。サマフォース全体でも完成したという話は耳にしたことはありません。あのような低俗そうな者に作れるとは到底思えませんな」
サマフォース帝国内では飛行船はまだ作られていないようだ。
確かに身なりも汚かったし、抜けていそうな性格をしていたのも事実であるが、私の鑑定では兵器と空軍の適性がどちらもSだった。そして知略も高い。
だから作れるとは限らないのだが、期待はしてもいいだろう。
飛行船なんてものが作れれば凄いことになりそうだし、家臣に誘ってみてもいいかもしれない。
帝都ではどうやら相手にされていないようなので、誘ったら来る可能性もあるしな。
次に遭遇することがあったら、その時は誘ってみよう。
「それでは皆さん、お入りください」
私たちは皇帝の住む城、ランバス城へと入った。
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