第74話 センプラーで
一週間センプラーで過ごすことになる。
必要な物はすべて、言ったら準備してくれるのでその期間中は暇が出来た。
この暇を利用して、センプラーを見て回ろうと思った。
サマフォース中から交易品が入ってくる都市であるし、見て回っているだけで面白いかもしれない。
金もそれなりに持ってきたので、何か面白そうな物があったら購入するのもありだ。
最初に来たときは、すぐに帰ってゆっくりと観光などする暇がなかったからな。
当然私一人で行くのではなく、リシアやシャーロットと一緒に行くつもりだ。
まずリシアに同行の意思があるのか確かめてみると、
「それはとてもいい考えですわ。わたくしはセンプラーに来たのは初めてですし、街中を少し歩いてとても面白そうな場所だと思いました。ぜひ一緒に行きましょう」
とリシアもセンプラーを見て回りたいようだ。
「わたくしは海をもっとよく見てみたいですわ」
「海は……これから嫌というほど見せられると思いますよ?」
船に乗って帝都まで行くのだ。
一日や二日では到着しないだろうし、海は飽きるほど見る羽目になるだろう。
「そ、それもそうですわね」
「市場に行ったりするのはどうでしょうか? 珍しいものが売ってるかもしれませんよ」
「センプラーは商業都市として有名ですからね。確かに市場はどんなところか気になりますわ」
「じゃあ市場まで行きましょうか」
目的地は決まった。
それからシャーロットにも同行の意思を確認したが、
「部屋でゴロゴロしてたい」
とあまりやる気を感じられなかった。
しかしリシアと二人で出かけるのに、護衛としてシャーロットを付けないわけにもいかない。
護衛くらいはクランに頼めば付けてくれるだろうが、完全に信頼できるか分からないからな。リシアに万一のことがあってはいけないので、ここはシャーロットに護衛をしてもらいたい。
多少強引になったが、シャーロットも連れてくことにした。
市場は港のすぐ近くにあった。
潮の香りが漂ってくる。
とにかく活気が凄い。
大勢の人々が歩いており、商人たちが声を張り上げて売り物のアピールをしている。
売っているものは新鮮な魚が多い。
全く見た事のない魚が売られているのを見て、やはりここは異世界であると再確認した。
赤と青の縞々模様の巨大な魚を見た時は、これは何の理由でこんな色なんだと疑問に思った。外敵に狙われやすくないだろうか? 狙われてもでかくて強いから大丈夫だとか?
味は美味いらしい。かなり高い値段がついていた。
売り物は魚だけではなく、珍しい交易品もあった。
「アルス様、これ見て。可愛い動物だ」
最初は「面倒だなぁ……」と言っていたシャーロットも、市場に来ると目を輝かせていた。
シャーロットが興味を抱いているのは、所謂猫である。
毛が青色の猫だ。
どうやらミーシアンには猫がいないようで、珍獣扱いされていた。
「そこの嬢ちゃん。もしかして魔法を使うのか?」
シャーロットが商人に声をかけられた。
「めっちゃ使う。わたしより使うものはたぶんいない」
と胸を張っていった。
「じゃあ、これなんかどうだ? 最新の小型触媒機だ。何と通常の五倍の威力で魔法を使えて、さらに魔力水消費量も従来の二分の一なんだ。これがたったの金貨1枚!! お買い得すぎるぜ!!」
正直胡散臭い。
そんな触媒機の情報は全く聞いたことがない。
仮にそんなものがあったら、もっと騒がれているはずだ。
戦は魔法以外ほとんど使われなくなる可能性だってある。
「マジ? それは凄い」
全く疑いを持たずにシャーロットは返答した。
このままでは買うと言いそうなので、私はシャーロットを引っ張って商人から離れさせた。
「アルス様、今のすごかったのに」
「シャーロットあれはたぶん詐欺だ……」
「詐欺って何?」
「だまして買わせる商人のことだ。あんな性能のいい触媒機が開発されていたら、もっと大騒ぎになっているはずだろう。私が知らないわけもない。嘘の可能性が高い」
「たぶん不良品だと思いますわ。威力が高いと言って買ってみたら、一回魔法を使用しただけで触媒機が壊れてしまった、何て話を耳にしたことがあります」
「そ、そんなことが……あの男許せない。文句言ってくる」
「や、やめとけ。下手に騒ぎを起こしてもいいことはない」
因縁をつけてきそうな男を成敗しに行きそうな勢いだったので、私は止めた。
シャーロットを護衛として連れてきたのは、何か失敗だったような気がしてきた。
ただそれからは、割と警戒して簡単に信用しなくなったようだ。
「でも本当に見た事のないものが色々ありますわね……あら?」
リシアの視線の先には、青い薔薇のブローチがあった。
「綺麗なブローチですわね。でも何でしょうか。初めて見るお花ですわ」
どうやらリシアは薔薇を見たことがないらしい。
サマフォースでは珍しいのだろうか。
ただ青い薔薇というのは、地球では珍しい物だった気がする。
この世界ではもしかしたら青が薔薇の代表的な色なのかもしれない。
リシアはしばらく眺めて、
「ではほかを見に行きましょうか」
「随分気に入られていたようでしたが、買わないのですか?」
「欲しいのですけど、あまりお金がないので、無駄遣いはしたくありません」
ブローチはそこまでの値段ではない。
銀貨五枚である。
十分出せる金額だ。
ここはひとつ買ってあげるか。
男として甲斐性を見せるときだろう。
「私が買って差し上げますよ」
「それはありがたい申し出ですけど、今はお返しできるものがありませんわ。あまり貸しを作るのは良くないと考えておりますので」
リシアはやはりしっかりした考えを持っている子である。
「リシア様がこれを受け取った時の笑顔が見たくて買いたいと思っておりますので、別に貸しにしようなどとは全く思っていませんよ」
本心ではあるのだが、自分で言ってて少し恥ずかしくなるようなセリフだった。
リシアはこの程度で説得できない、と思っていたが思ったより効果的だったのか、リシアは動揺して顔を赤らめている。
「ア、アルス様は相変わらずお上手ですわね。そんなこと言われたら買って欲しいとこちらも言わざるを得ませんわ」
少し動揺した様子で、そう言ってきた。
私はその言葉を聞いてブローチを購入する。
そしてそれをリシアに渡した。
「ありがとうございますわ」
飛びっきりの笑顔でリシアはお礼を言ってきた。
その頬にはまだ赤らみが残っている。
受け取ったあとリシアは、ブローチを懐に収めた。
「大事な物ですので、ここぞという時以外には付けられませんわね」
「え? いや、もっと気軽に付けてもらってもいいと思うのですが」
「そういうわけにはいきませんわ。アルス様からもらった初めてのプレゼントですもの。私の一生の宝物です」
一生の宝物とまで言われると、今のブローチで良かったのかと考えてしまう。
もっと高価な物の方が良かったのでは。
まあ、プレゼントは気持ちと言うしな。別にいいか。
そのあと、街を巡って城に戻った。
結構楽しかったし、リシアもシャーロットもそれなりに楽しんでいたみたいなので、良かった。
それから何回か街に行き一週間が過ぎ、ついに出港の日になった。
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