第72話 出発

 帝都に行くと決まり、一度準備をするためランベルクに戻った。

 リシアの方も準備は必要だそうだ。

 ランベルクの方がトルベキスタよりもセンプラーに近いため、準備が完了したらリシアはこちらに来る。


 私はまずセンプラーまで行く準備を整えた。

 センプラーから帝都までの物資は、現地で調達するつもりだ。

 ここから運搬するのは流石に多くなりすぎるだろう。


 それから、私と同行するものを決める。

 センプラーまで行くのも護衛は当然必要となるし、そこからもクランが護衛を付けはするだろうが、やはり信頼のおける護衛は付けたほうがいいだろう。

 よく考えれば、護衛はクランの長男の警護を優先するだろうから、いざという時に私やリシアを守ってくれない可能性も高い。


 シャーロットは同行させた方がいいだろう。


 リーツはマルカ人差別の多い帝都には、行かせることは出来ない。彼には残ってもらい屋敷のことを任せよう


 ほかに武勇が高いものはミレーユくらいか。

 ただミレーユを連れて行くと、どんなトラブルを起こすか分からないのでやめておこう。

 まあ、私が屋敷にいない間に残しておくのも怖いのだが、リーツがいるなら何とかしてくれるだろう。


 ロセルの兄弟など、そこそこ武勇が高いものはいるので、彼らを連れていくか。


 クランにリシアが引き受けてくれたこと、それから私も行くことになったという事を書いた手紙を出した。

 返事を待っていると、かなり時間がかかるので待たない。

 ただ、私が行くという事をクランが断ってきたら大変である。

 船は大きいだろうから、大丈夫であると思うのだが確実に許可を貰えるわけではない。厳しい場合は何とか上手く交渉するしかないか。


 数日後、リシアが屋敷にやってきた。

 馬車でやってきたようだ。

 身の回りの世話をするメイドや、何人かの兵士を連れている。


 出港の準備が終わるのがいつになるかは分からないので、なるべく早くセンプラーへは向かった方がいい。

 リシアの到着後すぐにセンプラーへと向かうことになった。


「それでは行ってくる」

「はい……屋敷の事は僕たちに任せてください」


 リーツは寂しそうな表情を見せながら、そう言った。


「アタシも連れて行ってはくれんかね。帝都はサマフォース中から美味い酒が集まってくるところだ」

「わたしもミレーユ姉さんが一緒に来てくれた方が楽しそうでいい」


シャーロットがそう頼んできた。


「観光しに行くのではない。酒ならランベルクにもあるだろう」

「むう、ダメか」

「アルス様は頭が固い」


 ミレーユは何度も行きたいと言ってきているが、その度に断っている。シャーロットが一緒にいて、さらにミレーユは酒を飲むとなると、悪い予感しかない。帝都に魔法をぶっ放して指名手配される予感すらする。


「帝都とパラダイルってどんなところだろ? アルス、お土産買ってきてね」


 お土産をロセルが要求してきた。


「だから観光しに行くわけではないからな……まあ、お土産くらいはいいが」


 ロセルは本が好きなので、何か珍しい本でも見つけたら買ってきてやろう。


「それではアルス様、そしてシャーロットも、無事に旅を終えられることを祈っています。行ってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくる」

「行ってきまーす」


 それから私たちは屋敷を出る。そして馬車に乗り、リシアと一緒にセンプラーへと向かって出発した。



 〇



 センプラーまでの道は相変わらず危険で、盗賊どもが出てくるのだが、シャーロットがいれば追い払うのは容易い。


 全員無傷でセンプラーへと到着した。


「ここがセンプラーですか……わたくしあまり遠出はしたことないので……海というのは話には聞いていたのですが、本当にこんなに大量に水があるのですね」

「今回はあの上を船で通って、帝都へと向かいます」

「何だか少しワクワクしてきましたわ」


 リシアは頬を緩ませる。

 遠出するのに不安を感じていないか、少し心配だったが杞憂だったようだ。


 そのあとリシアと一緒にセンプラー城へと行き、クランに面会した。


「其方がリシアであるか、私はクラン・サレマキアである」


 クランは声を低くし、威圧感を与えるような自己紹介を行った。


「初めまして。わたくしリシア・プレイドと申しますわ。クラン様のご高名は、何度も耳にしておりました」


 全く動じる様子もなく挨拶を返した。


 クランはそのリシアの様子を見て、少し表情を和らげる。


「ふむ、女子供は大体怖がって上手くしゃべれないのだが、中々肝は据わっているようではないか」


 もしかして少し試していたのだろうか。

 まあ、ここで動揺するようでは駄目だと判断するつもりでいたのだろう。

 私の力に信用はあるが、最低限のテストはしておきたいという気持ちは分かる。


「それで手紙に書いてあったが、アルス。お主も来るようだな」

「ええ、リシア様がそう望まれたので」

「私としてもお主がいくのは問題ない」

「ありがとうございます」


 あっさり許可を貰えたので、安心した。


「問題ないというより、どちらかというと行ってほしいと思っていた」

「というと、人材を帝都で探して来てほしいということですか?」

「そうではない。お主は自分自身の才を、その力で見ることは出来るか?」

「いえ、自分自身の能力だけは見ることが出来ないのです」

「そうか。私にはお主には、政治的な才があるように感じる。もしかしたらお主自身も交渉の補佐として役に立つのではないかと思ってな」

「そ、そうでしょうか?」


 政治的な才?

 武勇と知略は大したことないのは判明しているが、統率と政治はどうかは現状分からない。

 才能がないとは言い切れないが、あると言われても実感は持てない。

 正直何か才能あるところを見せたのかというと心当たりがないし、どうしてそう思ったのか疑問である。直感みたいなものだろうか。

 正直才能などないとは思うのだが、もしかしたらあるかも程度には考えておいてもいいかもしれない。


「出港まではあと一週間ほどかかるだろう。そうだ。ちょうど私の息子が城に来ているので、紹介しておこう」

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