第54話 報告

「軍議……ですか……」


 屋敷に戻って、リーツにロセルと一緒に軍議に参加するかもしれなくなったという事を、説明した。


「かなり荷が重いですねそれは……まあ、僕はまだレイヴン様に戦に関して色々意見を言ったこともありますが、ロセルは完全に未経験ですからね」

「そこが気がかりだ」

「参加するのは今後のロセルのためにいい経験になりますが、現時点で良い意見を言えるかは、分からないと言わざるを得ません」


 私もリーツと同じ考えであった。今でも知略は高いので、無理だとは言わないが、果たして敵の知将と呼ばれているような者たちの、裏をかくほどの作戦を考えつけるのだろうか。


「ちなみにそれは僕も同じです。敵の軍師は僕より圧倒的に実戦経験が豊富で、そんな人たちが複数いるとなれば、正直自信はないです」


 やはりそうなのか。

 話を受けたのは間違いであっただろうか。


「凄い人材を見つけられればいいんですけどね」

「そう簡単に天から降ってくるような話は来ないだろうな」


 今はリーツとロセルに期待するしかない。特にロセルは実戦経験を積むことで壁を乗り越えて、大きく成長を遂げてくれる可能性もある。

 ロセルの知略限界値は109である。これより上の者など、そうそういないだろう。


「アルス様、ご報告したいことがあります」


 リーツと話をしている最中に、家臣が急いだ様子でそう言ってきた。


「なんだ?」

「トレンプスにシャドーの者が来ていると報告が入りました」

「もう一月ほど経過したか。分かった急いでいこう」


 カナレには情報の伝達をスムーズにするために、家臣を何人か置いていた。

 その者たちが報告を送ってきたのだろう。


「アルス様、今回シャドーに人材の発掘を依頼してみてはどうでしょうか?」

「人材の発掘? それは頼めるのか?」

「不可能ではないと思いますよ。アルス様ほど精密に測れるわけではないでしょうが、ファムは団長ですから、最低限の人を見極める目は持っているでしょう」

「そうだな。紹介されて来た人物は私が改めて鑑定して、使えるかどうかを判断して雇うかどうか決めればいいか」

「はい、そうするべきです」


 そう簡単に使える人材がやって来るとは思えないが、やらないよりましだな。

 アルカンテスは人が多いし、眠っている有能な人材もいるかもしれないからな。


 人材の発掘も頼むと決め、私たちは急いでカナレのトレンプスへと向かった。



 〇



 トレンプスにはベンがいた。

 案の定、顔は覚えていなかったが、ステータスと特徴的な名前は覚えていたので、ベンであるとすぐ判別できた。


「団長からの報告が書かれた書状です。受け取ってください」


 私はベンから書状を受けとり、中身を読む。


 まず、アルカンテス城に忍び込もうとしたが、警備が厳重で不可能であったらしい。忍び込むのが無理なら、アルカンテス城の重臣とコネクションを作り、下働きとして雇ってもらう方針でいくと書かれていた。

 アルカンテスでは誰に取り入るのが得策か情報を集めている。今のところ有用な情報は集めきれていないようだ。


 書状を読み終えたあと、翌月の分の報酬を支払った。


「確かに受け取りました。次からは何らかの有用な情報をお伝えできると思います」

「頼んだぞ」

「はい、それでは」

「ちょっと待ってくれ」


 早々にベンは立ち去ろうとしたので、私は止める。人材を連れてきてほしいという事をまだ伝えていなかった。


「実は追加で頼みがあるのだが、聞いてくれるか?」

「なんでしょうか?」


 私は有能そうな人物を見つけたらランベルク家を紹介してほしいと伝えた。


「その程度ならたぶん大丈夫だと思いますよ。仮に間違えて無能な人物を紹介した場合、罰則があったりするのでしょうか?」

「いや、それはない。逆に有能な人物を紹介してくれたら、ボーナスとして金貨二十枚払ってもいい」

「二十枚ですか。分かりました。戻って団長に聞いてみますが、受けると思いますよ」

「頼んだぞ」


 要件を済ませて、私は屋敷へと戻った。

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