第13話 才能を見せつける

 二日ほど滞在する予定だったが、早めに人材が見つかったので、私たちは屋敷への帰路についていた。

 馬に三人乗りをする。私は幼児体型だし、シャーロットも発育がそれほど良くない方なので、三人乗りは可能だった。

 しかし、三人乗せた状態だと、馬も全力で走ることは不可能なので、移動速度はあまり早くない。


「わたしにあんな才能があったとは……天は二物を与えないというけど、わたしには与えられてたんだ」


 突然シャーロットがそんなことを呟いていた。


「二物とは、もう一物は何なのだ?」

「顔」

「……なるほど」


 この子は自分の顔に対する自己評価が、異常に高いみたいだ。

 間違ってはいないので、何もいうことは出来ないがな。


「ところで何でわたしに、魔法の才能があるって分かったの?」

「私は、他人にどんな才能があるのか、一目見れば分かるのだ」

「へー」


 感心したのかしてないのか、分からないような返事をしてきた。


 シャーロットは少し掴み所のない性格で、どんな人間かまだまだ分かっていない。


 父から言われたが、見抜くだけでなく、人材をきちんと扱う必要がある。

 そのために、きちんと家臣にする者の性格は、把握しておかなければならない。


 私は、シャーロットがどんな経緯で奴隷になったのかを尋ねることに決めた。


「なぜシャーロットは、奴隷になっていたのだ?」

「……それには、聞くも涙語るも涙の事情がある」


 奴隷になったくらいだから、壮絶な過去がありそうではある。もしかしたら語りたがらず、口を噤むかとも思ったが、語り始めた。


「わたしは、両親の顔を知らない、スラム街で育ったの」


 いきなり重い過去が出てきた。

 そこで、酷い目にあって、売られたとかそんな感じなのだろうか。


「わたしは、スラム街で日常的に酷い目にあってきた……というわけではなく、街の悪ガキどもを束ねるリーダーだったの」


 全然違った。

 リーダーだったのかよ。まあ、子供の頃は男女の体格差があまりないし、彼女は統率も高いからリーダーになっても不思議ではない。


「そのスラム街の領主は悪いやつで、税をめっちゃとってて、贅沢三昧で、ムカつくやつだった。食料がなくなってきて、腹が減って餓死しそうだったから、領主の屋敷に入って食料を盗もうとしたら見つかって、捕まった。普通なら処刑されてたけど、顔が良かったので高めに売れるということで、奴隷として売られた」


 割と自業自得といえば自業自得な理由だった。

 領主が本当に悪徳で、盗みに入らなければ死ぬという状況に追い込まれていたのなら、盗みに入ったのも仕方ないことかもしれない。


「どう泣いた?」

「いや、泣けはしない……お前も語るも涙とか言ってた割に、泣いてないだろ」

「そういえばそうだね」


 指摘を受けても、あっけらかんとしている。

 話をしてみたが、やはり掴み所はない。どういう経緯で、奴隷になったかは分かったが、性格は掴みきれなかった。


 その後、数時間馬に揺られ続けて、私たちは屋敷へ辿りついた。



 ○



 屋敷に到着したのは、夕方だった。


 私は急いで、父の下に行き、シャーロットを家臣にするよう頼み込んだ。


「ならん」


 予想通りな答えが返ってきた。


「どういうつもりだ。女を魔法兵になど。女は男が守るものであり、戦いに出すものではない」

「父上はそうおっしゃると思っていましたが、彼女の魔法の才は群を抜いておりますので、連れてきたのです」


 父は険しい目つきで、私を見てくる。


「レイヴン様、アルス様の申している事は本当でございます。彼女シャーロット・レイスには、一騎当千の魔法の力がございます」


 リーツは私を擁護する。

 私たちの表情が必死なものだったので、


「分かった。一度その実力を見せてみろ。お主らのいう通り、とてつもない才能を持っているのなら、魔法兵として家臣にしてやろう」


 父も遂に折れた。



 その後、場所を改めて試験を開始する。


 練兵場でシャーロットの魔法を使うのは、非常に危険である。そのため、別の大きくスペースが空いている場所を探す。


 元々畑だったが、今は使われておらず、雑草が生い茂っている一帯があったので、そこに木箱を的代わりに置いた。


 どこからか、シャーロットのテストをするという噂が広まったらしく、兵士たちが見物に来ていた。


「女を魔法兵に?」「どうも坊ちゃんの推挙らしい」「今度ばかりは流石にどうなんだろうな」「女って魔法使えるのか?」「顔がいいから、自分の将来の嫁にしたいのかな」「馬鹿をいうなよ、坊ちゃんはまだ四歳だぞ」


 色々勝手なことを言っている。

 一度シャーロットの魔法を見れば黙るだろうから、気にすることはない。


「では始めよ」


 父の言葉と共に、シャーロットは魔法を使う準備を始める。セッティング方法が簡単なため、一度見ただけでも出来ている。


 そして、左手の平を木箱に向けて、呪文を唱えてファイアバレットを放った。


 炎の弾が箱に向かって一直線に飛んでいき、命中。


 最初に魔法を使った時より、少し大きな爆発が起きた。


 たった一度使っただけで、シャーロットの魔法は成長を遂げていた。本格的に練習を始めたら、どうなるのか末恐ろしい。


 見物していた兵たちは、その様子を見て、唖然とした。目を丸くし、頬から汗を垂れ流している。


 滅多なことで驚かない父ですら、この様子には開いた口が塞がらないようだ。


 しばらく、場を沈黙が支配する。

 そして、


「……分かった。彼女を魔法兵として使うことにしよう」


 動揺しながら父はそう告げた。

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