我ら🌠ウルトラガールズ(V)o¥o(V) VER:short

ジョセフ武園

第1話「ウルトラ作戦 第二号」

「ねぇ、友利ゆうりさん。今日、仕事終わりに飲みに行こうよぉ~実は、人事部の若い男の子に誘われてるんだけど、女の子の数が合わないの~」


 そんな、軽薄な誘いを受けてアタシは箸で掴んでいた赤ウインナーを落としてしまう。

「え……と……

 ご、ごめんなさい。今日は予定が……」

 それを聞いて向かい側に座っていた先の言葉の女性。槍満そうみつさんは頬を膨らませた。

「友利さんってばいっつもいっつも、予定があるんですね‼

 なんです⁉ デートですか⁉ 一時も離してくれない彼氏さんに愛されるご予定ですか⁉ 」

 思わず「ちょっ」と声が漏れ、慌てて周囲を見渡す。

 一瞬食堂に居た人たちと目が合うが、彼等もすぐに自分達の話題に戻っていく。


「ち……違うってば。

 本当に今日は無理なの……

 実家から日持ちしない届け物が来るから……ね? 」


 だが、槍満さんはムスッとしたまま納得しない表情のままだ。

 これはマズい。と思いアタシは笑いながらお弁当の包みを結び。

「いけない……休憩時間、終わりだわ。じゃあ、槍満さん」

 と、足早に退散した。



 アタシの名前は友利杏奈ゆうりあんな

 年齢は今年で24の年女。最終学歴は地元の短大で現在はこの地元の和菓子メーカーにて事務の契約社員をやってます。

 お給料も雀の涙程度ですが、なんとかウサギ小屋程の賃貸アパートで生活を営んでいます。


 先程の女性はアタシの1年後に同じ部署に入社した契約社員の槍満さん。いつもコンパの予定を立てていて誘ってくれるのは嬉しいのですが、ちょっとアタシは苦手な感じかな。


 でも、先程の誤魔化す様な発言は。

 実は――全部嘘ではないんです。


 そう、アタシは今日は何としても終業後は予定通り帰宅しなければならない。

 それが――今日のアタシの任務ミッション


 4時間後――。

 チラリと時計を見る。あと30分で終業時間。この時期は繁忙期でもないから残業なんてのは製造側でトラブルでもない限りめったに無い。

 と、いうのも解っているんだけど、ついついそわそわとして何度も時計を見てしまう。

 そうしてると、火の出そうな視線で槍満さんがこちらを視ている事に気付いたので笑顔を返しておく。


 あと、5分。3分……ZERO‼


 アタシは立ち上がると、素早く扉に向かう。

「お疲れ様でした。お先に失礼します‼ 」

「おう、おつかれ~」


 誰の返事かも確認せず。早歩きで事務室の外にあるタイムカードを押す。この間―

―1分。目標は3分以内に会社の外に出る事。出来る。アタシなら出来る。


 1分30秒――更衣室に入り、素早く制服を外しながら自分のロッカーに前進。

 2分――制服をハンガーに掛け、鞄を取り出すと同時に備えていたスプレーを手に取りファブ。

 ロッカーを閉めると同時にダイヤルキーを回しロック。ここまでで2分15秒。


 更衣室を後にすると、一目散に出口に向かう。


 ジャスト3分――。

 見事に目標を果たすが、今日の任務はここからが本番だ。


 今日のアタシにぬかりはない。ローファーを履き替えてまで禁断のスニーカー出勤をキメていた為、靴擦れを心配する必要もない。

 徒歩15分の駅に向かうが無論ここも全力を尽くす。

 15分かかってしまっては、2分前に1本電車が出てしまう為だ。

 なれば――10分で駅に到着し、3分で乗車する。これで、14分も帰宅時間を短縮できる。

 さぁ、ここまでは机上の空論。あとはアタシが成し遂げるだけ。


 13分後、周りの人が心配そうに見つめる程に呼吸を荒くしたアタシは見事乗車に成功していた。

 流れ落ちる汗を必死でハンカチを当てて押し止める。

 いいんだ。どうせ電車内の人達に見られる恥は。だって今日だけだもん。


 そうして辿り着いた1Kのボロアパートがアタシの光の国だ。

 スマホの画面を開いて時間を確認する。17時28分。我が作戦ミッション狂いなし。

 さぁさぁ、それでは6帖一間のアタシのお部屋をご覧に入れましょう。


 目を瞠るは、赤と白のコントラスト。20代前半の乙女の部屋に所狭しと御出向かせしてくれるのは、アタシのカワイイ英雄達。

 小さなそのフォルムを綺麗に整列して見せてくれるそれは、子どもの時に欲しくて欲しくてどうしようもなかった「指人形」だ。


「ただいまー、みんなー」

 と、帰宅の挨拶も足早に時計をチェック。セミ人間にハサミを持たせ鮮やかな青色にカラーチェンジした怪獣。要するにバルタン星人のデフォルメされた目覚まし時計は、17時45分。

 もたもたしている暇はない。仕事着の安物スーツをハンガーに掛けると素早くファブリーズを2プッシュ。


 タンスの引き出しを開くとアタシは思わず口角を緩めた。

 アタシの部屋着は主に4パターンのローテーション。

 そして、数日前からこの日に着る服は決めていた。


 アタシはそれに手を伸ばすと素早く羽織る。そしてセシールのそこそこのショーツを隠す様に白のスウェットパンツを引き上げる。

 変身‼


 本当はフードを被ってアルティメットに完成したいけど、ふふ。以前同じ様な失敗があったからな。現在のアタシにぬかりはない。


 そうこうしていると「ピンポン」とインターホンが響く。

「き、きききききキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! 」

 解りやすすぎる程の狼狽で、飾られていた指人形のエースキラーがこてん。と転ぶ。


 アタシはそのままドタバタと玄関まで向かうと。

 ドアのとってを掴み息を呑んだ。

 間もなく「友利さーん? 宅配便でーす」と野太い声がすぐ戸を隔てた先から聴こえる。ごくり。ふふふ――遂にこの時が来た……‼


 なるべく興奮を表立たせないために、平静を装って一声間を空けておこう「はーい、少々お待ちくださーい」いかん。おのところで声が裏返ってしまったではないか。

 だが、そこで狼狽えてしまうとただの不審となる。

 

 幾度となく開いたそのドアを開けると見覚えのある配達員の青年が大きな段ボールを持って立っていた。


「じゃあ、ここにサインお願いします」

 にっこりと笑うその爽やかなビジュアルはきっとアタシの年代の女子にとっては配達物よりも価値の有るものなのだろう。

 だが――アタシはその宝物には目もくれず職場でも見せた事のない速度で手元の小さな円の部分にサインを書き込んだ。


「おつかれさまでっす‼ 」

 そして、段ボールを受け取ると脱兎の如く部屋へ戻る。


「……今日はゼットンか……確かこないだはベリアルだったな」



そんな、彼の呟いた声など知りもしないアタシは、もうそら三日ぶりの飯に襲い掛かるケダモノの様に段ボールを引き千切って開いた。


そして、梱包材の中から遂にそれを手に取る。


「ペギラ~~~~」

 出てきたのは、ウルトラ怪獣のフィギュア。

 しかも、そんじょそこらの物ではない。

 メーカーはCCP。造形塗装、共に国内でも有数の優良ウルトラフィギュアメーカーだ。だからこそ子ども向けの「ウルトラマン」フィギュアでは例外として価格もまず子どもでは出が出せない。

 玩具ではなく、インテリアとしてのフィギュア。


 無論アタシにとっても初めてのCCP。

 一昨日夜に意を決してクリックしてから、配達予定日の今日まで楽しみで眠りにもつけなかった程だ。


 そんな大切な人生初の高クオリティウルトラフィギュアは、アタシの趣向から怪獣から選ぶ事になった。

 最終候補は3体。

 まずは先にも出ていたバルタン星人。

 ウルトラマンと言えばひょっとしたらウルトラマンより有名かもしれない怪獣。セミ人間のディティールからグロテスクな表情をしているが、よく見ると真ん丸おめ目がキュートな怪獣。

 次点がエレキング。

 ウルトラセブンに登場した怪獣で、第3話の登場ながら撮影上で最初にセブンと対峙したこの怪獣はセブンの広告などで使われた為、キングジョー、ガッツ星人と並びセブンに代表される人気怪獣。


 そして、最後がアタシが最終的に選んだペギラ。

 この子はウルトラマンの前番組「ウルトラQ」に登場した怪獣だ。

 ウルトラQの大きな特徴は、ウルトラ作品で唯一「モノクロ」作品だという事。だから映像もウルトラマン以降に比べたら鮮明でもない。

 だけど、アタシはこの子の眠たそうなおじいちゃんみたいなおめ目と波平さんを思わせる頭の先から出た1本の角が大好き。

 そんな少し間抜けそうな見た目でも実は作中でも1、2を争う最強怪獣。それもアタシはギャップ萌えしている。


「ふんふふん♪」鼻歌が止まらない。ブリスターを慎重に切り取るとドラッグストアで購入しておいた綿手袋に手を通し、フィギュアを取り出した。

 実物は想像以上だ。思わず生唾を飲もうとしたが、先程から飲み過ぎてもう残っていない。

 寝ぼけまなこでこちらを見つめているペギラは。

 間違いなくあの日、アタシがブラウン管テレビで見ていたペギラだ。

 何度も何度もレンタルビデオを観なおして。

 見ていた。


 そっと手の中のペギラを抱き締めると、彼の為に用意していたタンス上のスペースに立たせ、一度それを見上げて手を叩くと拝んだ。


「よっし、明日からも頑張って働くぞーー」


 友利杏奈は、ウルトラマンが大好きなウルトラ女子です。

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