第1回・図書準備室
藪の中アンソロジー企画
企画説明・”事実”
twitter上アンソロジー企画「藪の中企画」第1回目の作品です。
「藪の中 アンソロジー企画」とは、
提示された一連の『事実』を元に、参加者が一人称の短編を持ち寄り、
『事実』を補完したアンソロジーを作り上げる、という企画です。
企画概要→https://privatter.net/p/4295447
第1回目「図書準備室」
舞台は現代の日本。春一番が今吹くか、吹かないか、といった時期。地方都市の進学校、大きな校舎の図書室は2階にある。広い図書室に隠れるように、誰も入らない図書準備室がある。連なる図書館の窓枠に並んで、小さな窓が締め切られたままでぽつんとある。
朝。部活棟の掃除当番の少年は走っている。校門からのなだらかな坂を上って、ふと上げた視線の先で、図書準備室の窓がからからと開く。薄暗い中、白い手の先に少女のシルエット。目を凝らすうちに、その姿は消えてしまった。
11時。昼前の気怠さに満ちた生徒たちの顔、顔。問題を解く彼らから視線を反らせた先に、締め切られたはずの小窓に、白い一輪挿し。
15時。生徒は出ることを禁じられているバルコニーを、黒猫が悠々と歩く。今のところは誰かに見つかって騒がれてはいない。小さな小窓の前を黒猫は進む。一輪挿しには水仙の花が揺れている。
18時。外はもう薄暗い。運動部のかけ声が遠くこだまする。文芸部の少女は帰宅するところだ。ふと顔を上げた先で、一輪挿しが倒れていくのを見る。あ、と思ったものの、花瓶が割れることもなく、遠目で見た限りでは水も零れていない。少女はそのまま、止めていた足を動かして帰路につく。
夜。警備員は校舎を見まわる。装置にはなんの異常もない。消火栓のライトだけが暗い廊下に赤く光っている。2階の廊下、視界の端に動くものが見えた気がする。一瞬、黒髪を翻して誰かが走ったような気がする。駆け寄るがもう誰もいない。
翌朝。からから、と音がして図書準備室の小窓が開く。
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