勘違い=最悪
「お前らの状況を簡単に言うと、一つの肉体に魂が二つ入っている状態だ。まぁそのせいでお前が選ばなかった方のチートまで使えるようになったわけだが」
「それは大丈夫なんですか?」
チートを両方使えるというのは正直かなり嬉しい。使いこなせるかどうかは別としてだが……
だが一人の人間に二人分の魂が入っているというのは、やはり正常な状態ではないだろう。
二重人格とは違うだろうし、イメージ的にはカバンに無理やり荷物を詰め込むようなものだと思う。そして何かの拍子にバンッ!と中身が飛び出してしまう……まぁよくわからないし、俺の勝手なイメージなのだが、当たらずとも遠からずだと思う。
しかしこの場合解決策はというと、やはりどちらか片方を追い出すしかないわけで、この場合それは俺ではなく隣にいる少年ということになる。本人もそれをわかっているのか、なんとも言えない表情をしていた。
「まぁ、前例はないが……大丈夫だろ」
意外な答えが返ってきた。
この神様のことだから「駄目だから片方消すよ」なんて言って、あっさりと彼をまた死なせてしまうものだと思っていたのだが。
「生き返ってしまったものをまた殺すわけにもいかないし、生き返ったと言ってもこの中だけの存在だ。たとえ問題があったとしても気まぐれでこんなことした神様が悪いってことにしておけばいいだろ」
「はぁ……そうですか」
どこか他人事のように言っているが、その神様というのはあんたことだろう。
そんなわかりきったツッコミをしてしまうと、今度は俺が彼を殺すことになってしまうので黙って言葉を飲み込むことにした。
「あー、ただ今のままだと魂と肉体がちぐはぐだからそれは変える必要があるな」
神様がカプセル型の薬のようなものを俺へ投げた。
「なんですかこれ?」
「肉体をお前のものに作り変える薬だ」
なるほど、これを飲めば内外ともにこの体は俺のもになるわけだ。つまりそれは同時に彼の存在があの世界から消えることを意味している。
「なにしてんだ。さっさと飲めよ」
「これ飲む前にコイツに体を使わせてやること出来ませんか」
その一言に神様は面倒くさそうに顔を歪め、少年は驚きの表情で俺を見た。
「一日、いや半日とかでもいいんですよ。せめてあの女の子にお別れをいう時間くらいあげられないかなと……」
いなくなることが決まっているとしても、急に消えられるよりもちゃんと別れを告げられた方がいいに決まっている。残酷ではあるがその方が別れを受け入れられると俺は思う。
俺がいくら彼女に彼の死を告げたところで信じてもらえないかもしれないし、変に希望を持たせないためにも自分の口で死ぬことを伝えてもらったほうが……
いや、違う。そうじゃない。
俺は彼女に伝えたくないだけだ。罵倒や恨み言をぶつけられるのが嫌で、その役割を押し付けようとしているだけだ。
あわよくばいいことをしたという免罪符でこの罪悪感を紛らわそうとしている。
「……お願いします」
罪の意識から目をそらすように、神様に頭を下げた。
「ちっ……勝手にしろ」
そう言って神様消えてしまった。
机のの上にはいつの間にかさっきまでなかったものがいくつか置いてあり、その中に俺が貰ったものとは別の薬が混ざっていた。その薬を手に取り少年に手渡してやる。
「え、あ……ありがとう、ございます」
「いや、気にすんな……俺のためでもあるんだから……」
「えっ?」
「いや、なんでもない……それよりこれから長い付き合いになるんだから……その、よろしくな」
何かをごまかすように差し出した手は、おずおずと少年に握り返された。その際に少年がまた顔を赤くし顔を反らすので「どうかしたのか?」と訪ねてみるととんでもない答えが返ってきやがった。
「いえ、あの、その……僕、イリア以外の女の子って初めてで……」
「……おい。言っておくが俺は男だからな」
「え……えぇぇぇぇえええ!?」
これが俺と少年、エミルとの(最悪の)出会いだった。
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