遭遇 その3

「これだけのチート能力があれば十分だと思うが……お前の場合心配だから特別救済処置も施しておこう。それと下手に記憶を消して使命を忘れられても困るから、記憶を保持し今の年齢のまま転生させてやろう」

「そんなこと出来るんですか?」

「まぁな。本来ならば向こうの世界で生まれてくる赤ん坊の肉体にお前の魂を割り込ませて転生させる方法が普通だが、今回は死んだばかりの肉体に魂を入れお前の肉体に作り変えるという方法を使う。これならば少なくとも子供のうちに死ぬという事態は防げるからな」


 よくわからないがそんなに俺は死にやすいと思われているのだろうか?前世というか過去の出来事を知らないので否定することは出来ないだけに反論のしようがない。

 もっともこの傲慢神様にはどんな反論も聞かないのだろうけど。

 ならばさっさと転生してしまおう。あまり賢くはない俺が選ぶべきチートは決まってるのだから。

 これ以上一緒にいても面倒な小言を言われるだけだろうし。


「わかりました。じゃあ準備出来たんで転生させてもらえますか?」

「ほう。もうどちらのチートにするか決めたのか?」

「はい、戦闘系のチートにしようかと」

「なるほど、じゃあ少し待て」


 そういって彼女はリモコンのような物をどこからか取り出し、どれだったっけな、とボタンを選び始めた。

 何個目かのボタンを彼女が押すと、俺の目の前に落とし穴のようなものが現れ危うく落っこちそうになった。


「あぁ、これだこれ。その穴に落っこちれば転生出来るぞ」


 なんだ、落ちてよかったのかよ。


「それじゃあ、いろいろお世話になりました。一応希望に添えるよう頑張ってみようと思うので」

「いや、ちょっとまて」


 別れの言葉を告げいざ飛び込もうとしたが、突然の制止になんとか落ちないようその場に踏みとどまった。

 なんなんだよいったい。

 抗議の視線を物ともせず、彼女は再度リモコンをいじりだした。

 また何個目かのボタンでこれだ、と頷き現れたモニターのようなものを見るように指示してきた。

 古いテレビのように砂嵐みたいな画面が映し出され、段々と意味のある映像へと変わっていった。

 どうやらどこかの森を上から写したものらしい。注意して見ると真ん中に小さく誰かが写っているのがわかる。少女が再びリモコンをいじると、その人物に焦点が合わされようやく現状を把握することが出来た。


「お前が飛び込むのは彼の者が死んでからだ」

「は?」


 何を言われたのか理解出来なかった。

 彼女の言う彼の者とは画面に写っている人物で、どうやら棍棒を持った化物に追われているらしい。

 彼は俺と変わらない歳頃の少年で、一緒にいる女の子の手を引き、生きようと懸命に走っているように見える。

 なのにこの神様は今なんて言った?


「助けようとしないのかよ!あんた神様なんだろう!?」


 そんな叫び声も虚しく、帰ってきたのは冷めた表情で返される冷酷な言葉だった。


「いっただろう。死んだの肉体を使うと、それが彼の者の肉体だ」

「そりゃ聞いたけど……何もあいつじゃなくてもいいだろう!まだ俺と変わらない子供だろ!」

「それがどうした。お前もガキだが死んだぞ。ガキだからと死ねない理由にはならないだろ。それにお前の件がなくても彼の者は死ぬ。それはもう決定事項だ」

「だからって……そんなこと……」


 彼女の言葉が正論だったとしても、眼の前で誰かが死ぬことに我慢ができなかった。

 だがどんなに悔しくても俺に彼を救う方法はない。

 今この穴に飛び込めば救えるだろうか?

 いや、きっと肉体がなければ何もすることはできない。最悪転生することすら出来なくなるかもしれない。


「もうすぐだ」


 非常な彼女の一言と共に化物が振りかぶった棍棒で彼が吹き飛ばされた。

 女の子の悲鳴が響き渡り、血を吐き出しながら少年はなんとか立ち上がろうとする。

 弱々しく何かを口にしているが言葉が違うのか彼の言うことを理解することができなかった。

 そんな彼にトドメをさそうと化物は再度棍棒を振り上げた。

 事切れる寸前の彼の言葉やはりわからなかったが、なんとなくこう言っているような気がした。


 彼女を助けて


「あ、ちょっと待て!」


 俺はたまらず眼の前の穴へと飛び込んだ。


これが彼、 栗栖達也クリスタツヤの転生人生のはじまりである。

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