あなたの夢買います
半澤 溜吾郎
第1話 夢への扉
後半42分、絶好のチャンスを迎えていた。このPKを決めることができれば、日本をワールドカップ優勝へ導くことができる。キッカーはもちろん私だ。ピッチ上の大歓声の中、私は呼吸を整えボールをぺナルティスポットにおいた。一呼吸おいてから、レフェリーの笛が鳴り、私はボールへ向かって走って行った。
そこで映像が止まった。
「こちらの夢ですと、2万円での買い取りとさせていただきます。」
いかにも怪しい顔立ちの胡散臭いスーツに身をまとった男が言った。
「もう少し高く買い取っていただくことはできないのでしょうか?」
私は、不満そうな様子で怪しい顔立ちの男に言った。夢を売って生活費にする生活は、かれこれ二ヶ月以上続いている。最初は夢を売ることなど、ありえない話だと思っていたが、現実に自分の夢をモニタリングし、他人が買っていく様子をみて、今ではどっぷりはまってしまっている。
「最後のPKを蹴ることができ、なおかつ決めることができたのならば10万円にはなったでしょうね」
それを聞き、私はなんともいえぬ気持ちになった。もっと高額な夢が見たい…
その日から私は、高額な夢を見るために、現実の世界であらゆることをした。夢の中でPKを蹴ることができるように、毎日シュート練習を、過激な性体験の夢を見ることができるように、風俗に通いつめたりもした。そのおかげか、少しずつ高額な夢を見ることに成功し、大金を得ることができるようになった。
そんなある日、私は今までにない夢を見ることに成功した。
場所は、渋谷のスクランブル交差点。私は、そこにいる大勢の人だかりに車で突っ込んでいた。人々は血まみれに、そこらじゅう悲鳴にあふれていて、スクランブル交差点は地獄と化していた。それにとどまらず私は、恐怖のあまり動けなくなった女性を次々と強姦していった。
気が付くと私は、夢を買い取ってくれるお店の前に立っていた。私は急いで、先ほど見た夢を売ろうと足早に店内へと入っていった。
「いらっしゃいませ~」
「先ほど見た夢を買い取っていただきたいのですが」
私は気分が高揚し、呼吸を乱していた。
「それでは、あなたの夢をモニタリングさせていただきます」
私はそこに映し出される、先ほど見た強烈な夢をまだかまだかと待っていた。
そしてついに、モニターに夢が映し出された。しかし…
(あれ、この夢は昨夜見た夢だ… なんで)
「あのう、モニターに映し出されている夢は、昨夜のものなのですが…」
不安そうな様子で私は言った。
「そうですか、機械ではあなたの最新の夢は昨夜のものになっていますね」
怪しい顔立ちの男はすべてを悟ったような顔をしていた。そして、時同じくして私もすべてを悟った。
外には、10台以上のパトカーが止まっていた。
あなたの夢買います 半澤 溜吾郎 @sarukaeru
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