第5話

[アイテム]はさておき、今問題は桜井を攻略する方法だ。持っている情報があまりにも少ない。夫に内緒で不倫を楽しんでいるのは事実のようだが、それをどう利用しようか。


情報が少なすぎる。攻略だろうがなんだろうが、とりあえずは近づきさえすれば可能なようだが。いきなりナンパをして接近するのには無理がある。結局は情報だろう。今持っている情報だけでは攻略どころか残り時間だけが過ぎていくだけだ。とりあえずもう一度、彼女の家に行ってみることを決心した。


家の中で何か役に立つ情報を得たかった。趣味はクラブと出ていたが、それ以外に平凡へいぼんな趣味などそういうのが気になった。

そして、万能キーを使用して人の家に無断侵入するだけで警察は出動するのかどうかを調べる必要もあった。そうでないことは確信しているが、確実に確認しておけば今後[万能キー]をリスクもなく使用できる。


それで今度は慎重に彼女がいない隙をみて潜入することにした。俺は窓のカーテンをまくり上げ外を注視した。部屋のカーテンを開けると向かい側のマンションの彼女の玄関が見える。彼女がゴミ出しに出てくる時間を知っていたのもこのためだった。


玄関で彼女が外出するのが見えたら、その時こそまさにチャンスだ。


時間は11時30分を少し過ぎていた。ずっと外だけをみていたからか疲れる。かなりうんざりしてきた。パソコンが切実だった。くそッ、パソコンでもあったらまだよかったのに。どうやら午前中は家から出ないように思われる。そういえば、彼女はホットパンツとTシャツだけでテレビの前に寝転がっていた。これは当分出かけないという意味だ。


そこで、とりあえず空腹を満たすためにコンビニに行くことにした。コンビニで購入した食べ物もまた[ロード]によって消えてしまった。だから俺はまたコンビニへ行きお弁当を買ってきた。それから再び窓の外を注視しながらお弁当を平らげた。時間はゆっくり流れていく。コンビニに行っている間にまさか出かけてはいないだろうか。


女性の外出にはかなり時間がかかると聞いたことがある。特に長時間の外出であればあるほど。俺が望むのはその長時間の外出だ。だからまだ家にいてくれなければならなかった。ひたすら外を見つめていることしかできない現実にだんだん苛立ってきた頃、ついに動きが確認できた。桜井が玄関から出てきて歩いていくのが見えた。タイトなジーンズとブラウスを着て。化粧までしたようだ。


誰が見ても外出する格好だった。


スカウターに出てきた攻略情報には不倫相手が多数とあった。

どうみても夫に内緒で恋人に会いに行く模様だ。俺は今だと思って素早く隣のマンションの方へと移動した。

しばらく俺がコンビニに行っていた間に、夫が帰ってきていたり、他の人がいたり、する大惨事だいさんじに備え、とりあえず玄関のチャイムを鳴らしてみる。何の反応もない。石橋も叩いて渡る、今はそれが大事だった。しかし、どうも大丈夫そうだ。


[万能キーを使用しますか?]


[万能キー]を読み込んでタッチするとドアが開いた。何の問題もなく家の中に入れた。靴を脱いで中に入りリビングを見渡した。やはり警察が出動することはなかった。[万能キー]の存在意義そのものを否定するような強制力は発生しなかった。


警察が押し入ったのは、やはり彼女を襲おうとしたために起こったということが確実だった。俺は安心して家の中を見渡した。ソファーとその前にテレビが見える。いくつか家具があることを除くと特におかしいところはない。


テーブルへ移動すると何通かの郵便物が目に入った。見ると、借金の督促状とくそくじょうがあった。貸付滞納かしつけたいのうについての通知書もあった。夫に内緒でクラブに通いながらつぎ込んだお金だろうか。


部屋は全部で2つ。1つは寝室でもう1つは書斎しょさいのように見えた。寝室に入ってみるとベッドとドレッサー、クローゼットがあるのが見えた。俺は何気なくクローゼットを開けた。中には彼女の服がたくさんかかっている。


ただ、夫の服は見当たらない。別々に保管しているのだろうか。もしくは別居中だとか。仲が良くないというスカウター情報によると俺の仮説の可能性はあった。寝室から出てきて書斎へと移動する。夫の部屋なのか男性用の物がたくさん目に映った。しかし、どれも全て平凡な物だ。役に立つ情報は全くない。


ただ生活感があまりないことに違和感を覚えた。夫の物と見える本にはたくさんほこりが積もっていた。寝室にはほこりが全くないのと比較すると、この部屋は意図的に掃除していなかったようで汚かった。


やはり別居中なのだろうか。


浴室にも入ってみた。歯ブラシが1つしかない。そしてシャンプーから浴室用品全てが女性用だった。こうみると、より一層別居説に傾く。


台所にはとても大きな冷蔵庫があった。俺は再びリビングに戻ってきた。テレビの前の大きな結婚写真には夫と桜井が幸せそうに笑っていた。こんな2人がなぜ別居まですることになったのだろうか。おそらく浮気のせいだろう。


-ピリリリリ


その時ドアロックが解除される音が聞こえた。俺はびっくりして寝室に逃げ込み、すぐさまドアを閉めた。思ったよりも早く帰ってきた。どうしよう。非常に困った状況だ。このまま彼女が寝室に入ってきたら、ばれてしまう。悩んでいるとクローゼットが目に飛び込んできた。素早くクローゼットのドアを開けて中に入って隠れた。そしてどうか彼女が外に出て行ってくれることを心の中で切実に祈った。


寝室のドアが開く音がした。おそらく桜井だろう。見つかるのも時間の問題だった。心臓が飛び出しそうだった。


「私の家、結構探した?」


「うん、見つけにくかった。」


「迷ってないで早く電話してくれればよかったのに」


「男のプライドってもんがあるだろ」


「結局はかけてきたくせに」


「それより旦那が帰ってこないのは確実だろうな?」


「うん、帰ってこないよ。そんなこと心配しないでキスしよう。私、さっきからやりたくてたまらなかったわ。うふっ。」


「好きだな!」


その言葉を最後に、ぶちゅっ、ぶちゅっという音が聞こえてきた。キスでもしているのだろう。戸惑った。よりによって俺の目の前でキスだなんて。それは今にもベッドであれをやるという意味だろうか。


不倫相手が多数だなんて呆れたものだ。すると、ふと透視カメラの存在が頭の中をよぎった。別居中であるとしても不倫の場面を撮った写真は桜井には相当不利になるのではないだろうか。離婚訴訟でもする時に慰謝料を全く得られないだろうから、脅迫する材料としてはもってこいだ。


これを利用すれば何か試みることもできそうだった。カメラが[アイテムショップ]にあるものもこのためではないだろうか。


俺は心を決め[アイテムショップ]を読み込んだ。


[Lv.1 スカウター 10万円 ]

[睡眠スプレー 25万円 ]

[万能キー 60万円 ]

[カメラ 10万円 ]

[外車 5千万円 ]

[国産車 8百万円 ]


[カメラ 10万円を購入しますか?]

出てきたウインドウをタッチした。前に説明を見た時には、決めたものは何でも撮ることができるとあった。壁も透視できる[アイテム]だ。だからクローゼットの外で寝転んでいるところもうまく撮れるだろう。使用方法はアイテムをタッチした後に撮りたい方向をみて瞬きする。そして撮りたいものが人であることを頭の中に入力すればよい。


ところがその時だった。

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