第二五三編 「貴方のために」
「あっ、諦めないのが
それ以外、つまり俺の意識の大半は目の前に立つ美しい少女に――七海
「……誰も彼も、諦めが悪いようね」
七海が決して大きくはない、しかし透き通るように綺麗なその声で俺に話し掛けてくる。
「恋愛のことしか考えていない
「……お前が言うな。そっちこそ妹や
「それもそうね」
瞑目し、彼女はふわりと微笑を浮かべる。……どうやらこの様子だとこの姉妹もどこかから
「――私は、貴方の方が正しいと思うわ」
「!」
突然そう言われて思わず目を丸くする俺に、お嬢様は「あくまで私見だけれどね」と付け足してから続ける。
「私には恋愛なんて分からない。あれほど手酷く袖にしたはずの久世くんが未だに私との交際を諦めない理由も、そんな久世くんから『付き合えない』と断言されてなおも食い下がる
「……」
「その点に限れば貴方は賢い……いいえ、
「……いつになく
「……そうね」
七海は自嘲するように呟き、再び俺の顔を見た。
「……私は、貴方が正しいと信じたことを信じなさいと言ったわ」
「! ……ああ」
「貴方はいつも自分の能力以上のことをしようとして無茶をするから……自分の手が届かないところまでなんとかしようとし過ぎだと言った。そうやって自分を傷付けるのはやめなさいと……そう言ったわ」
「……ああ」
それは
俺が真太郎に本音で
そしてそれはある意味、俺が望んだ結末そのものである。
桃華が真太郎に自分の想いを伝え、かつ二人の――否、俺たち三人の友情が崩壊することもなく。
俺が正しいと信じて出した結論は、俺が意図しない形で作用し、俺の望んだ結末を現実のものとしたのだ。
「――その上で、もう一度言わせてもらうけれど」
俺の知る
「私は貴方の選択の方が正しいと思っている。現に貴方は経緯はどうあれ、最終的には自分が望んだ通りの結末を迎えている。それは貴方が彼らのことを――久世くんと桐山さんのことを真剣に考え、悩んだからこそなのでしょう。私だったらこうも上手くはいかないもの」
「……なにが言いたいんだよ」
言っていることを真に受ければ褒め殺しだ。けれど彼女の口調はやはり俺のことを手放しに褒めているようなものではない。
七海はその黒い瞳で俺のことを見つめながら淡々と言う。
「言ったでしょう。私は貴方の最後を――決断を見届けに来たと。真剣に考え、悩むことの出来る貴方には……最後にもう一度だけ考え、悩む余地があると思ったから」
「……だから、なにをだよ」
「貴方自身のことを、よ」
――そう言われて、なんとなく気が付いた。
俺の背中を押した彼女のあの言葉は、本当はそういうつもりで言っていたのではないかと。
「小野くん、貴方は本当にもう〝諦め〟がついているの? 本当にこのまま最後までその想いを――桐山さんへの想いを、伝えないままでいいの? 最後くらい――」
『最後くらい、貴方は貴方のために行動してもいいのではないの?』
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