第2話 届かない支出報告書の行方
ドサッと、あまり嬉しくない音がした。
それが自分に向けてでなく、この部屋にいるもう一人の人間に向けてであったので、ホッと内心で安堵する。
だが、そのもう一人。今年で17歳になる青年の顔はみるみる引き
彼の机に書類を積んだ、まだ若くすらりとした、ほんの少し茶色がかった髪をアップにしてバレッタで
「以上がこの書類の内容になります。ご確認をお願いします」
「・・・・・・ご確認」
見たくもないと言わんばかりに指で書類の
それを彼の隣で眺めていたこの国の第一王女である
この国、
気候はきちんと四季があり、北の方では冬に大雪が降って雪かきが必須になるくらいであり、南の方の夏は、サウナのように暑い日々が続く。
年号は
ここ、
その王宮の南棟1階にある自習室で、未沙姫の勉強を見ていた彼、りなの兄である
「姫、笑い事じゃないです」
「ごめんなさい、架名。だって、あまりに嫌そうな顔をするから」
堪えられないとばかりにくすくすと笑う姫を見て、架名が
「嫌ですよ。何この量。何でこんなに
むうぅと口を
「架名様、折角の美人が台無しですよ?この書類、今日中に片付けて下さいね?」
「俺、美人って言われても嬉しくない。てか、今日中とか絶対無理。何のいじめかなぁ
小雪さんと呼ばれたこの女官、
両親を亡くし、暫くは
「いじめてなどいませんよ?これくらい、一時間もあれば出来ますでしょう?」
「一時間とかありえない」と、架名が心の中で
「架名、
未沙が結末が分かった表情で架名を見やる。その架名は、そう簡単に
「姫、挑戦する心を失くしてはいけません!何度駄目だろうが、
「そうですね架名様、苦手な書類処理も、挑戦し続ければきっと得意になられますよ?こんな
「書類処理は別なの。りなにやらせればいいだろ?あいつのが俺より早く片付くだろうし」
「りな様は今、予算の
運動神経も良く
「そっか、それでこんなのが俺に・・・・・・それにしても・・・・・」
他に誰かいるだろ?と言いかけた言葉は、小雪に
「本日お時間があって、
タイミング良すぎないか?それ。と疑いたくもなったが、そう言われてしまうと引き受けるしか道はない。
結局架名はしぶしぶ引き受けて、小雪は「失礼します」と仕事に戻っていった。
パタンと閉まったドアを、もの言いたげに眺めてから、架名は深々と
「頑張って!架名ならすぐ終わるわよ、ね?」
気を
「姫、そんな微笑みながら・・・。いいですよ、やりますよ、引き受けたんだし・・・・・いや、引き受けさせられたのか・・・・・。こんな面倒なの、やりたくないけど・・・。ほら、姫も次の問題解いて下さい。先程の基礎問題の応用です」
次の問題を指で示してから、架名は書類を手に取る。
宮木架名は、未沙のボディガード
運動神経は
この宮木兄弟もまた
兄弟の両親は、架名がまだ小学校低学年の頃に殺された。
犯人はまだ捕まっていない。
小雪とはまた違った理由の訳アリで、その辺の街中にある
色々事情はあるものの、まるでそんな問題はないかのように、日々、平和な時間がゆったりと流れているのだった。
未沙はペンを片手に問題と睨めっこするも、先程の架名と小雪のやり取りで集中力が切れてしまったらしく、全く手が進まなかった。
架名はと言えば、嫌だ何だと
「分かりませんか?」
手が止まっていることに気が付いて声をかけると、未沙が「う~ん」と煮え切らない返事を返した。
「頭に入ってこないのよね」
未沙は真面目ではあるが、学業と名のつく勉強はあまり好きではない。
母の
父の牧の血が半分流れているので、こうして大人しく勉強してはいるものの、実際の性質的には華菜の血が色濃く出ているのでは?と架名は
「
“ 頭に入ってこない ” んじゃなくて、“ やる気がない ” が正しいのでは?と架名は口には出さず、心の中で突っ込む。
「ねえ架名、ちょっと休憩しちゃダメ?」
「ダメです。さっき十分笑って休憩したでしょう?あと30分は頑張ってお勉強して下さい」
「・・・・・・架名の意地悪」
口を尖らせると、架名は聞こえなかったかのようにさらりと流した。
「何か
「何でもない」
ふくれっ
「ほら、私も書類処理頑張りますから、姫もお勉強頑張って下さい。因みにこの問題、使う公式はこっちの式ですよ」
教科書に並ぶ公式を指さしてヒントを出すと、架名は再び書類に目を通し始めた。
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