オリオン・リング

@humioji

第1話 そこにある

 人はなんで生きていけると思う…?そうやって、オンラインゲームの仲間に聞かれたことがある。それに俺は、「分かんねえな…強いていうとやりたいことをやるため…なんじゃないか?」そう、あいまいな答えを出した俺だったが実際今、猛烈に悩み中…実際30にもなっていまだにこんなゲームにはまり込んでいるんだからな…ふとカレンダーに目が付く。

「そろそろ、爺の命日か…」



爺というのは私の祖父であるアルバート・スラッシュの事である。爺にしては長生きだった。だが、不可解なことに爺は死ぬ直前に俺にこう伝えた。私を火葬にしてくれという言葉だった。その言葉の通りに私とその親族たちは火葬にして爺を弔った。明日はその命日から10年。いつも命日の日には爺の大好きな薔薇を墓の前に置いていく。それが俺の爺の命日にする行動なのである。爺は親族からは人気がないらしい。命日の日になると親族は爺の墓参りに来るのだが、いつもひそひそ話をしている…

「何十年もどこかほっつき歩いて…帰ってきたら一年でぽっくり逝っちまうんだからねぇ…」

そんな悪口を墓参りの日には散々聞かされる。そんなことを考えながらまた、オンラインゲームに戻る。それは何気ない一日の日常なのだが何故だか今日は苦痛に感じた。

「朝か…」

俺は起きて墓参りに行く準備をした。行くんだったら朝早くに行ったほうが親族の悪口を聞かなくてもいいのだから…俺は一度、そんな悪口を言ったやつをぶん殴ってしまったことがある。俺もそこまでお人よしではない。その時の俺は爺に尊敬の念を抱いていたくらいだ。はるか昔の世界大戦で飛行機乗りとしてその任務を全うしただけではなく、そのあとは世界を転々とする放浪の旅をする。俺はそんな生活にあこがれていた。だが、それも昔の話。今では…

そう考えているうちに爺の墓の近くに来た。そこで初めて異変に気付く。長いコートを着て一輪の薔薇を持った老人だった。どうやら歩くこともおぼつかないらしい。手に持った杖は細い足をやっとのことで支えている風に見えた。まるで、亡霊だ。どうやらその老人は何やら墓の前でしゃべっている。その老人の目からは冷たい涙が流れ出ている。

「いったい俺の爺と何の関係があるんだ…?」

そう思いながら、じっとその姿を見ていると雨が降ってきた。すると老人は何かに祈る様子で手を合唱させた。俺もそのあと花を置いた後にすぐに老人を追いかけることにした。なんで追いかけてきたのかはよくわからない。ただ、俺はすぐに走っていた足を緩めた。あんなによぼよぼな老人がいなくなっているのである。たった一つの角を曲がっただけなのに…ただ、目の前には古い洋館が建っていた。この洋館は地元では有名なホラースポットとして知られている。夜、不気味な洋館に一筋の丸い光が浮かび上がる、入ったものは出られない。なんて噂である。いつもの俺ならここで帰っていたのであろう。だが、今の俺は何故だかあの洋館に入ってみたいと考えていた。正門には鎖がつながれている。ここからは入れない。どうしようと考えていると冷たい風が吹いてきた…もう秋だ。町の街路樹は緑色の新緑が茶色く枯れ果てていた。だが、どうしても諦められずその辺をじっくりと眺めていた。するとそこには一本のはしごがあった。

「枯葉に隠れていたんだな…」

そう思うと俺は門にはしごを建てかけた。門の中に入ると一本の長い道が続いていた。どうやら続いている先は洋館の入り口らしい。俺はその道をゆっくりと歩いて行った。門の前にはチャイムなどの便利な機能はなく、本当に古風な扉だ。俺はその扉を手でたたいた。返事はない…だが、鍵が開いているようだ。ガチャッと扉が開いた。体中に寒気が走る。根も葉もないうわさ達が俺の体を芯から凍えさせていく。最初の一歩がなかなか踏み出せない。洋館の中はガラスは荒れ果てていた。ガラスには何かの絵が描いてあった。だが、何を描いていたのかは分からない。そのガラスから分かるのはこの洋館はとてつもなく古いという事だけだったのである。ゆっくりと一歩を踏み出た。そして俺は大きなロビーが出た。その机には一枚の写真があった。その写真の中身を見て俺は唖然とした。

「爺…!?」

なんでこんな古びた洋館に爺の写真があるのだろうか。そこに映っている爺は妙に悲しそうな顔をしていた。

「お客様かな?」

奥のほうから声が聞こえた。その声は何か落ち着きがあり、しわがれていた。俺は反射で体がびくついた。

「すいません!別に悪気があってこの洋館に入ってきたわけではなくて、それは、その…」

必死に言葉を紡ごうとするがなかなか良い言い訳が出てこない。

「いいんだよ…緊張しなくても…」

そういうとその老人はさらに近づいてきた。どうやら長いローブをかぶっているらしい。目は青い目をしていてとてもやさしそうな眼だ。だが、異変に気付く。腕が一つ義手になっているのである。その義手には何やら奇妙な文字が刻まれていた。

「どうしたのかな?私の顔に何かついているのかな?」

俺はなんて言っていいか分からず押し黙っていた。すると老人は俺が持っていた写真に気が付いたらしい。

「この写真はね…私のたった一人の相棒だよ…」

そういうと老人は歩き出した。どうやらグラスを出しているらしい。

「お茶の準備をしないとね…」

そういうと老人は紅茶を作り始めた。その場から逃げることもできたのだが、もっと爺のことを聞きたかったので、俺はしばらくこの古い洋館にいることにした。

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