君のために綴る

赤崎シアン

お別れの時間

 本当は追いかけたかった。

 一歩、また一歩と遠ざかっていく君を捕まえて抱き締めたかった。


 でもできなかった。

 できたのは、すたすたと歩いていく君を見つめながら少しでも近づこうと手を伸ばしただけ。


 君は一度も僕のほうを振り返らなかった。

 なんだか、胸の奥がちくりとした。

 いかないで、と届かない言葉が僕の口から漏れる。

 もう君は見えない所まで行ってしまった。

 僕の右目から雫が落ちる。

 慌てて擦ったけれど、落ちた雫は消せなかった。


 ばいばいする前、君の頭を撫でていた。

 あれ、ほんとは、君にして欲しかった。

 お返しを期待してたんだ。

 ハグでもキスでもよかった。

 なにか、君の温もりが欲しかった。


 ごめんね、言えなくて。

 ごめんね、寂しがり屋で。

 ごめんね、泣き虫で。


 君はいつまで僕のことを許してくれるかな。

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