第3印 炎の面影

サクッ…

「何だろう?これ…」

朝、いつもの机に向かおうとしていたところ、机に一本の矢が刺さっていた。矢には手紙のようなものが丁寧に巻かれている。

『世にいう「矢文」ってやつね。』

「矢文…?」

『果たし状とかに良く使われる手法よ。矢で手紙を伝えたい相手に飛ばしたりするの。』

何で玲子ちゃんがそんなことを知っているのかは謎だけど…とりあえず手紙を読もうか…


果たし状

今夜、あなたの近くにある森にてお相手願いまする。


「えっ?たったこれだけ?」

そこそこ大きめの半紙を使っている割には文が短い…しかも何か字が汚いような…

「どうする…?玲子ちゃん…」

『罠の可能性も十分にあるけど、行ってみない限りは分からないわ。』

「そうだね…慎重に行こう。」

手紙を仕舞い、依頼を遂行しながら日が落ちるのをひたすらに待った…


ー夜の森林ー


すっかり日が落ち、暗い森の道を歩いている。そして、私達の前方から火の灯火が見えた。灯している人物は黒髪の長髪で弓を携えており、いかにも大和撫子という風貌の女の子だ。

「あなたが果たし状を伝えた人なの?」

「そうよ、お目にかかれて光栄だわ。凛条美子…凛条玲子。」

玲子ちゃんのことも知っている!?一体この女の子は…!?

「そんなに警戒しなくて良いわ。私は単に実力を試したいだけよ。」

「あなたは一体…?」

「私は炎妖怪の「炎華(えんか)」。あなた達のことは友人の妖怪から聞いている。」

ボウッ……

炎華は妖怪であることを示すように掌で火を出して見せた。さっきの灯火は炎華自身の能力だったんだ…

「それじゃあ始めましょう。あなたの本気を見せて…!」

「分かった、手加減はしないよ!」

フッ……

美子の人格が仕舞われ、私(玲子)の人格が表へと出る。

「本当に人格が変わるのね…表情がまるで違う…」

「私なら全力で相手に出来るからね。」

まずは小手調べに一閃打ってみるか…流石にこの程度では倒れないと思うけど。

「蝶月輪・一刃!!」

カチャン…シュバッ!!

「やはり結構速いわね。」

「まだよ…!」

チャキッ…

網切に放ったのと同じく、刀を逆手に持ち替えてもう一度一閃を放つ。

「二刃!!」

ガキィン!!

だが彼女の持つ強固な弓に弾かれる。

キリキリ……

炎華もまた、炎を灯した矢を放とうとしている。

「灼炎矢!!」

カシュッ!!

「っ!!」

射程は中距離ぐらいか…この間合いを維持していたら確実にやられる…ならば!

シュオッ…!!

「はぁっ!!」

冷気を身に纏い、雪女の力を行使した。

「随分と早い本番ね。その方が私としても燃えるわ。」

炎華は頭上に数本の炎の矢を素早く放ち、私の頭上目掛けて雨のように降らせた。

「火雨!!」

それを私は絶対零度の刀で打ち払う。

フシュッ!!フシュッ!!

「そんな…炎の矢が凍ってる…!?」

「残念ね。私の冷気は炎でさえも凍らせるから。」

そのまま次の攻撃に移り、地面に刀を滑らせる。

「氷爆葬!!」

ガキガキ……パキィンッ!!

一筋の氷は前方の地面を凍らせながら相手に近づくと、氷山の一角のように咲いた。

「さっきから冷たい攻撃ばかりだけど、何だか不思議ね…何故だかあなたの中に温かみを感じる…」

「私もよ、あなたの炎を見ていると…亡くなった兄様の面影を感じるの…」

「そう…お兄さんがいたのね…」

「兄様は三年前に亡くなって、形見である刀は今も私の腰に差してある…兄様は刀に炎を纏わせた戦い方を死ぬまで続けていた。たとえ自分より格上の相手でも…」

目から涙が溢れそうになるが、ぐっと堪えた。

「私があなたから感じた温かみはお兄さんのだったのね…」

「だから私も…あなたに敬意を表して、この刀を使おうと思う。」

カチャ…

兄様が死んで以来、手をつけなかった兄様の「猛華刀」を左手で引き抜き、二刀流として構える。今なら兄様も刀を使うのを許してくれているような気がするから…

「兄様……力を貸して!」

「その意義、お見事!!」

シュイン…ボシュウ!!

「猛華刀・業火葬!!」

左手には炎を纏わせた刀、右手には絶対零度の刀…兄様と一緒なら、負けることなどない!

『行くよ、玲子ちゃん!」

「分かってるわ!」

ボシュウ!!

「剛炎弓!!」

炎華の方も弓自体に炎を纏わせてこちらに突撃してくる。

「はぁぁぁぁぁ!!!」

「せいやぁぁぁぁぁ!!!」

ガキィン!!パキパキ……

「なっ…!?」

炎の弓を凍らせ、次に左手の炎の刀と右手の絶対零度の刀で同時に一閃を放つ…!!



    『「氷輪業火葬!!!!」』



「やっぱり強かった…私がかなわないくらいに……」

カチャン…

「十分あなたも強かった…良い勝負だったわ。」

地に伏せた炎華に手を差しのべる。お互いに力を出しきり、ついに勝負がついた。

フッ……

「ふぅ…お疲れさま、玲子ちゃん。ゆっくり休んでね。」

戦いが終わって私(美子)の人格が戻され、玲子ちゃんの人格は心の中に仕舞われた。

「できればまた会いに来てくれる?今度は友人として…ね?」

「うん!次にまた会おうね。今日はありがとう!」

「いえ、こちらこそ。」

こうしてまた一人、妖怪の友達が出来たよ…お兄ちゃん。

第3印、完。

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