まじかるココナッツ。
ririno
-1幕:始まりの言葉
世界が燃えていた。
家も外灯も石も何もかもが、、、
その燃え盛る大火の中心で狂える笑みを浮かべながら男は絶叫した。
歓喜の叫び。
狂気の雄叫び。
享楽の絶叫。
男の中で言い表せないほどの何かが内から溢れ出てくる。
その身に宿すものは彼を突き動かすものはいったい何なのだろうか。
狂えるほどの欲望、渇望、痛み、憎悪、そして禍々しい魔力。そして全ての存在を無へと変える異次元に燃え盛る炎。男の感情が揺れる度に炎は勢いを増しその姿を変えていく。赤く、黄く、青く、白く、そして黒色に変わり果てながら、、、
そして次々と全てを燃やし尽くした。
あるものはその身に宿した魂ごと、あるものは身につけたものから順に灰となって散った。
その都度、鈍く輝く閃光が世界を照らし何かを浮かび上がらせていく。
見渡す限りの空で蠢く得体の知れない不気味さを語るように。
封印はすでに解かれている。
大昔、世界を滅ぼしたという存在はすでに目覚めている。
ただし本来の姿には程遠かった。
ならば完全に復活させればいいだけだ。
ここには餌が豊富にある。
15年前の大事件の果てに英雄街と呼ばれた、、、かつて小さな宿場街だった町は今や、世界中から旅人や観光客で賑わう町となった。まして今日は人々が集う祝祭の日。しかも怨敵であるかの《英雄》たちはこの街にはおらず障害となるものは存在し得ない。力を取り戻すのに困ることなどありえないはずだ。すでにこの町に住む多くの人間が彼の支配下に置かれた生きた人形と化しているのだから。
彼にはこの程度のことなど児戯に等しいことだった。
《狂炎》とも《怒り狂う中指》とも呼ばれる男が手を振るえば木々は燃え盛り建物は吹き飛ばされた。男が気に喰わないなければ、瞬時に塵芥となった。これまで滅ぼした存在など数知れず、逆らう者も国も魔物も何もかも全てが彼の前では燃え尽きた。今やその首には世界最高額の懸賞金が掛けられている。
そして今日、英雄街と呼ばれる町が世界からその存在を消失しようとしていた。
狂った笑みが溢れ落ち炎の影に映し出される。
背後に透過された姿からは彼が今最高の歓喜に満ちているなど誰も思わないだろう。
彼にとって今日は記念すべき日だった。
羨望し熱望し渇望した化物がついに今日この日から世界中を蹂躙することになる。この日をどれだけ待ったことだろうか。そして自身の掌の上、気まぐれだけで生かされている男。その男の命を弄ぶことを、、、この数ヶ月どれだけ願ったことだろうか。
目の前の命が尽きようとしている男は、少し前に自身の逆鱗に触れた男だった。
しかしまずは完全な復活が先だ。
こんなゴミの一部などいつでも殺せるのだから。
縦横無尽に暴れまわるであろう化物の物足りなさに僅かばかり辟易としながら男は心から叫んだ。
「あぁぁっぁぁぁっ!!!!!餌は十分だろっ!!喰え喰いつくせェ!!!!」
それでも足りないのならば他の世界にも解き放てばいい。世界はこの死にかけの男のようにゴミだらけなのだから。
「どうだ美味いだろうがぁっ!!!!」
憎悪、後悔、哀愁、生物が発するありとあらゆる負の感情や何かの辿り着いた先の果て。
その行き着く先、辿り着く先で産声を上げた化物が闇夜の空を蹂躙している。
かつて世界は一度滅んだ。この化物の手で滅び世界は書き換えられたのだ。
その日からだろうか。文明が世界が構築された日からだろうか。あるいはそれよりもはるか昔、人々が誕生するよりもずっとずっと遠い日からだろうか。この結末は決まっていたのかもしれない。
この世界の未来はたった今、結論付けられようとしていた。
真実を知る者は誰もいないのかもしれない。
世界を知っていた者は現れないのかもしれない。
現実を見た者は存在しないのかもしれない。
まるで何かを渇望するように黒い闇の中で蠢く大量の黒い人の手のような何かは暴れまわり、町中の人たちを次々と喰っていく。
住民を守ろうとした衛兵が喰われ、逃げ遅れたお腹の大きな夫人が飲み込まれ、何が起きているのか分からない顔をした赤子を抱いた大人ごと食された。そして表情を無くした人たちもまた次々と闇の中へと消えていく。
かつて《魔喰い》と恐れられ《災厄》や《厄災》と言い伝えられた化物は、次に喰らいつく獲物に目をつけた。
怯えて恐怖の顔を浮かべる小さな未来への担い手たちへと。
絶望の顔を見せる子供たち。
未来を望まれたはずだった子供たち。
信じた者が大魔導士だと疑わない子供たちへと。
やらせない、、、
だから青年は体を動かそうとした。
絶対に守る、、、、守る、、、
【あぁあぁぁっぁ最高の舞台だろブルーベルぅ!!!!?????】
手を上げようとした。
【お前が確信した通り次の獲物はあのガキたちだァ!!お前が守ろうとしたガキたちだァ!!】
声を出そうとした。
【あぁぁぁん聞こえてるかブルーベルぅ?】
動かなかった。
腕も足も口も何もかもが、、、動かなかった。
ふと誰かの甘言が聞こえたような気がしたせいだろうか。
偶然、逸らした視線の先は自分の体の真ん中、そこから赤く燃える何かが生えていた。
長く鋭利な金属の片手剣だった。
剣が燃えていた。
先ほどまで自分が子供たちを守るために手にしていた刃物だった。
その切っ先から真っ赤な液体が滴り落ちながら炎を上げている。
血も剣も体も何もかも、、、そして自分自身も。
【お前は死ぬよなぁぁ何もできずに何も守れずにいぃいっぃぃいっ、、、、だからぐちょぐちょにしてやろうかァ?みちょみちょかァ?ほらちゃんと見ろよォォオッォ。ガキどもの顔がぐちゃぐちゃだ、汚ねぇだろ、、、ったくお兄ちゃんお兄ちゃんって煩せぇなぁあァァァッ!!】
途切れゆく意識の中で瞳に映る光景が脳裏に刻まれていく。
無尽蔵に喰われていく見知った顔の姿。
血だまりの中で事切れた恩人の姿。
絶望に触れ涙と血を流す子供たちの姿。
そこに迫る黒い闇のような人の手が次の獲物を見定めるように群がっていく。
その化物の先にいたのは、、、
【良かったなぁブルーベルぅ?お前も餌《ゴミ》として見なされてよぉっ!!!!!!!】
化物が次に標的にしたのは青年だった。
空に浮かぶ全ての手が一人の青年に次々と群がり、、、
【じゃあな、、、ニセモノ】
全てを貪り尽くした。
何も見えない闇の中、微かに写る目の前でゆっくりと流れる光景を眺めた。
目の前に小さな小さな女の子がいた。
小さな手は冷たく、そして震えている。
だからその手を大きな手で優しく包み込んだ。
その顔は険しく今にも泣きそうな顔だ。
だから腰を下ろし、そして優しい笑みを浮かべた。
その瞳は自分を真っ直ぐに見つめている。
だから見つめ返した。
ただ真っ直ぐに。
そして抱きしめた。
優しく強く人肌を感じられるように。
目の前に泣いている子供達が見える。
だから唱えることにした。
笑顔にするために、、、
瞳の輝きを取り戻すために、、、
漏れ出す感嘆の声を聞くために、、、
いつもと変わらない魔法の言葉を。
作り物じゃない。偽物でもない。
自分だけが唱えることができる魔法の言葉を、、、、
全てを笑顔にするための魔法の言葉を。
青年は化物に喰われた。
-----------喰われたはずだった。
「オマエ、、、何者だァ?」
だが目の前で起きた信じ難い現実を物ともせず男はニヤリと薄っ笑みを浮かべた。
まるで舌なめずりする獣のように新たに出現した獲物を凝視する。
「、、、唯の大魔導士だよ」
纏わり付いた闇を払い光り輝く宝石のような星空の下で愛用の帽子を被り直し魔法のステッキを踊らせるように携える。
同時に空に浮かぶ無数の輝きに負けないほどのフィンガースナップを炸裂させた。
それは青年が宣言する大魔導士の魔法の証。
そして口にするのは始まりの合言葉、、、、
「
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今更ながら最初に載せるはずだったもう一つのプロローグです。
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