15幕:人形使いは城に招かれる
あの事件から1週間が過ぎた。
生き延びた僕たちは町の人たちと協力して復興に尽力していた。
化物が放った光線は町中の半分以上を壊滅させ吹き飛ばした。
それに加えてその余波で火災も起こりかなりのものが焼失した。
中でも化物が訪れた方角の建造物は全て更地となり、そこで見た光景は信じられないものだった。
まるで荒野のような視界が広がっていたんだ。
町中だったのにね。
一歩間違えば全てがこうなっていたに違いなかった。
住民も何もかもすべてが同じように消え去っていたのかもしれない。
僕は改めて奴の恐ろしさと己の運の無さを自覚したんだ。
そんなことを感じるのは無事だった僕だけじゃない。
親類を亡くした者、財産を失った者。
漂う絶望感が町を覆い尽くしていた。
そしてそんな光景は僕の心の何か奥深くを締め付ける。
奴を倒したとしても起きてしまったことへの無力感は一向に拭えない。
何度も目を逸らしたくなった。
でもいつまでも下を向いて生きることはできないんだ。
幸いにも奴を倒してから数時間のうちに王都から騎士団が到着した。
緊急時に慣れているのか彼らの対応は素早いもので、あっという間に救護所やら保安所や炊き出しが用意されたんだ。
おかげで僕たちは温かい食事にありつけた。
こんなに美味しい食事にありつけたのはいつぶりだっただろうか。
そんな気がするほど気が張っていたんだと思おう。
さらに更地には仮設のテントが備え付けられ今は多くの人たちが雨風を凌げる状況までに落ち着いた。
元に戻るまではさらなる日数が必要になるだろうけどそれでも生きているだけでも幸運なことだと信じたい。
そして町中では面白い光景が見られるようになった。
半壊した町中の至る所で小さなものたちがせっせと飛び交っているんだ。
あるものは瓦礫を町の外へと運び、あるものは建物を修復し、あるものは小さな子供達とともに一緒に遊んでいる。
言わなくても分かる通り僕の相棒たちである。
引き篭もりが所持していた人形たち、そして新たに仲間にしたぬいぐるみや人形たちを総動員して町中に散らばせているんだ。
一体一体の特徴と特性に合わせてハニー、ボーン、ウィッシュの指揮の元、統率された動きは見ていて気持ちいいくらいだ。
当然、あの引き篭もりが嫌がらなかったわけはなく、、、ちゃんとアンちゃんに合わせる口約束を取り付けているんだけどね。
もちろんドア越しに姿を見せるだけなんだ。
あんなゲスの変態の前に幼女を連れ出すわけがない。
親御さんに悪いし、アンちゃんの教育にふさわしくないしね。
何よりドア越しに僕が一人で呟いただけだしね。
そう約束を確約させたわけじゃないんだ。
口約束は破るためにあるんだ。
そうそう初めこそ驚かれたものの今では町中の人たちからも受け入れられ至る所で頼りにされている。
さすが僕の相棒たちである。
僕が得意げな顔をしながら瓦礫を運搬していると、、、ふと二人の男女と小さな女の子が近づいてきた。
男性の方は、白づくめの鎧を着た体格のいいダンディな方だった。
今は兜をしてないおかげで彼の優しそうな顔と眼差しがその女の子に向けられているのが把握できた。
この方は町でも一度だけ顔を見たことはあったんだけど挨拶する機会はなかったかな。
それよりも以前に森の中で嫌な対応をされたことが瞬時に頭によぎったんだけど、その時と同じ格好だったような、、、あの時の騎士の一人だったのかな。
一方で抱きかかえられた小さな女の子と女性の方は会うたびに何度も挨拶している顔見知りだった。
母娘でよくうちのホットル、コルドルやパトと遊んでいたからね。
突如、大人二人が僕の前で深く頭を下げた。
「この度は娘を助けていただきましてありがとうございました」
「本当にありがとうございました」
「ありがとーございましたー」
「当然のことを、、、したまでです。それより頭を上げてください」
何だか無性に気恥ずかしくなった僕は取り繕うように口にした。
お礼を言われるなんてあんまり慣れていないしね。
でも目の前の抱きかかえられた女の子はそんなことに構いもせず呟いたんだ。
「おにいちゃん、、、たすけてくれてありがとう。おかさんをたすけてくれてありがとう」
そして僕に小さな女の子、、、アンちゃんがぴょんと飛びついた。
小さくて柔らかくて壊れそうなほど繊細な感じなんだけど両手でしがみ付く付く力は弱くない。
落とさないように反射的に抱きかかえると彼女は満面の笑みを浮かべながら胸の中で何度も何度もありがとうって連呼した。
僕の中に纏わりついていた無力感も虚無感も何もかもが消え去っていく。
この笑顔に救われたんだってね。
あとで考えればきっと僕もいい笑顔をしていたんじゃないかな。
そんな時である。
とんでもない一撃が僕の心を突き刺したんだ。
「ん。ロリコンは果てろ」
「ぐふっ!!」
足元で馴染みの幼女の皮を被った悪魔が冷たい視線を向けていたんだ。
そして続けてさらなる追い討ちが僕の心を引き裂いていく。
「シュガールあとで相談があるんだけど、、、好きな人がロリコンの変態だったなんて私どうすればいいかな?」
「ぐはっ!!」
僕の命はもはや燃え尽きようとしていた。
オッドアイの瞳から放たれる疑惑の眼差しは容赦なく僕の心を抉っていく。
「グリンティア、僕が好きなのは、、、」
「、、、なのは?」
僕が言いかけた時だった。
大事な大切な一言を遮るように変態の声が響いたんだ。
「幼女ですぞぉーーーっ!!萌えっっっ!!!!」(自宅警備員)
「こんな時は引き篭もってろよ!!」(シュガール)
「てめぇ今こそ社会復帰するときだろーがっ!!アンちゃんが呼んでんだぞっ!!」(自宅警備員)
「呼んだ覚えがないよっ!!」(シュガール)
「うるさいっ!!今大事なとこなんだから」(グリンティア)
「ババァもう更年期かよ!!」(自宅警備員)
「なんですって!?この引きニートの癖に!!」(グリンティア)
「ん。ろりこんのせいで修羅場」(パト)
突如現れた小さな屋敷のドアから飛び出そうとする瞬間に僕はさっきまで抱えていた瓦礫を突き出し念入りに封じ込める。二度と出てこないように。
そして恥部を異空間に仕まうと僕は愛想笑いを浮かべたんだ。
「はっはっっ賑やかな方々だな」
「そうでしょ。いつもこんなに楽しそうなのよ。だからアンが懐いちゃうのも分かるでしょ」
ツボに入ったんだと思う。
ご夫妻揃って盛大に笑われていた。
どうやら僕がロリコンだと誤解はされなかったようだ。
そんな修羅場が理解できない幼女の声が同じ幼女に向けられた。
「あーっパトちゃんだぁっ!!こんどはおままごとしようね」
「ん。次は負けない」
「つぎもかつもん」
「ん。なんなら今から勝負」
「わかったー」
「ん。二人を呼んで」
「はいはい、、、ホットル、コルドル」
ぴょんと僕の腕から飛び降りたアンちゃんはパトとそのまましゃがみ込み勝負?に準じるつもりらしかった。
一体何をやってるんだか。
すぐさまホットルとコルドルの二人を呼び出すと二人はすぐに合流し何かを始めた。
なぜかは分からないんだけど無性に和むんだが、、、
「くくくっ、、、これはすまない」
そして引き攣るほど笑いに襲われた男性は気を取り直したようだ。
先ほどとは違う真摯な態度でとんでもないことを口にした。
「以前のこちらの対応を心よりお詫び申し上げます。そして娘の件、ならびにこの町の件改めてお礼を申し上げます。またこの度、あなた方の活躍にお礼を申し上げたいと高貴な方からのお話がございまして、、、、つきましては明日、王城まで足をお運びいただけないでしょうか」
「それってつまり、、、」(グリンティア)
「僕たちがお城に呼ばれたってこと!?」(シュガール)
それは長いこと待たされた王城への訪問の機会だったんだ。
アン(๑• ̀д•́ )✧:ホットルとコルドルもまけだからわたしのひとりかちーっ!!
パト(・`ω・):ん。ま、また負けた、、、
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●登場人物
・シュガール:元貴族の少年。人形化という異能の持ち主。ロリコンM属性疑惑あり
・パト:王国第3王女の女の子。何か企んでいる疑惑あり
・グリンティア:元ラウンジのNO.1ガール。年齢不詳疑惑あり
・引きこもり:永遠の自宅警備員。変態疑惑あり
・ホットル、コルドル:シュガールの最初のぬいぐるみ人形。今後益々強化される疑惑あり
・ハニー、ボーン、フィッシュ:シュガールの次のぬいぐるみ人形。次回の活躍疑惑あり。
・アンちゃん:近所に住む幼子。パトの遊び相手で友人、将来は悪女になる疑惑あり。白づくめの騎士団に父がいる。
恐れ入りますが、、、、シュガールの振り回されっぷりを楽しみたい方、グリンティアとの甘い時間に期待したい方、もしよろしければ評価やブックマーク等いただけると嬉しいです。
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