7幕:人形使いは仲間を探す 上



 晴天の中、一直線に照らす逆光が白い帯のように降り注いだ。

 まるでそこだけが異次元のような光景だった。

 その光の中心で赤茶色の髪を神々しく照らしている女の子は僕を見つめながら冷たく言い放った。


「ん。ご主人様の言いつけは聞くべき」

「ど、どうして君が?人見知りの君にできるわけがないじゃないかっ!?」


 つい先日、冒険者ギルドに保護した彼女を送り届けその後のことを押し付けた。

 無理やり僕を奴隷にと宣言する小さな女の子の企みなんて正気の沙汰じゃない。

 だから面倒ごとを全てギルドに任せ、僕は色々とクエストを吟味し二度と顔合わせしないようにしたはずだったのに。


「ん?演技は得意。人を意図的に操るなんて朝寝前」

「じょ、冗談じゃない僕は自由だ」

「ん。下僕は黙って私の命令に従うべき」

「くっ人見知りの癖に、、、なら僕はこのクエストを辞退してやる」

「ん?ならギルドに報告してもいい、あることないこと付け加えて」

「なっ!?子供のいうことなんか誰が聞くもんか」

「ん。小さな女の子に変なことをしようとしたと聞けば?」

「は?ちょっと!?」

「ん。下僕はロリコンの変態野郎」

「くそっ!!」


 とんでもない幼女だ。

 このままでは僕はあの筋肉の乙女のような変態ブラックリストの仲間入りだ。

 あの町には住めなくなるし下手したら一生ロリコン犯罪者呼ばわりだ。

 あいつと同じ境遇の不名誉の称号なんだ。

 冗談じゃない!!


 いやまてよ、、、


 僕は心の中で冷静に算段した。

 所詮はちょっと生まれがいいらしいどこかの裕福な家庭の子供。ならば彼女を家に送り届けて礼金を頂いてこのクエストをさっさと終わらせればいい。

 ランクも上がるし報酬も頂ける。

 そして僕はそのまま何処かにトンズラしてこの幼女ともおさらばだ。

 このまま押し問答し続けたとしても頭の回る彼女に付け入る隙を与えることになりかねない。

 だから僕は黙って言うことを聞いて彼女を調子に乗らせるんだ。

 そして僕の身代わりを探してそいつに押し付けその隙をついて僕は自由を手にいれる。



 1時間後、僕たちは彼女をトカゲ型の魔獣が引く小さな馬車に乗せ彼女の故郷という場所へ向かうことになったんだ。

 道中は他に護衛として冒険者のパーティーが一組同乗している。

 依頼品の彼女を除けば全部で4人の臨時のパーティーである。


 僕のことは言うまでもないが、他の3人は『両天秤』と呼ばれる三人組のパーティーで僕より2つランクが上の先輩冒険者たちだった。細身のチャラけた男性一人に綺麗どころの女性二人で自分よりも少し年上だろうか。

 恐らく前衛は片手槍を持つ男で女性二人は後衛。うち一人が弓射手と魔術師。

 比較的バランスが取れている構成じゃないだろうか。


 二人のうちどちらも御者をできるとのことなので直接的な動ける護衛は三人になる。

 クエストはすんなりと捗るはずだったんだ。





「ちょっと!?シュガールちゃんマジウケるんですけど!!」

「ほんと!!マジそのぬいぐるみたち可愛いっていうかヤバくない!?」

「マジヤバい!!私もその人形たち欲しいんですけど!!」


 三人の引き攣った笑い声が木霊していた。


「ちょシュガールちゃんその歳でお人形遊びとか可愛すぎですけど!!」

「マジやばい、きっと彼女もいないんじゃない!?」

「マジちょーやば!!私たち襲われないようにしなきゃ!!」


 僕の中で何かが込み上げてきた。

 自然と拳を握りしめた。


 あれから道中、魔物達と3回ほど遭遇したんだ。

 僕は必死に魔物達を仲間達とともに対処に追われた。

 もちろん僕と共に戦ったのは『両天秤』のこの役立たず達じゃない。

 僕の愛すべきぬいぐるみ人形の仲間達だ。


 5体と僕は連携し襲いくる魔物達を撃退した。

 その奮闘は賞賛すべきものだった。


 一方、彼らはその度に笑い転げ全く戦力にならなかった。

 それどころか道中こちらをバカにし出す始末だ。

 心底邪魔だし正直、胸糞悪かった。

 自分よりランクが上の先輩?

 冗談じゃない、こいつらは唯のクズどもだ。

 今がギルドのクエスト中じゃなかったら間違いなくこいつらを人形にしてサンドバックにしているところだ。


 そんな雰囲気に気が触ったのかある人物の様子がおかしいことを僕は悟った。

 黒いオーラを漂わせる幼女は三人の前にとてとてと近づいてきたんだ。

 たぶん心底この三人が気に食わなかったんだと思う。

 だってパトは今まで見たことがないとびきりの笑顔をしていたんだ。


 そんな様子に気づくこともなく三人の周りはチャラけた感じが最高潮だ。


「お姉ちゃん、お兄ちゃん、お願いがあるの」

「お?っていうか俺幼女にマジモテ!!」

「ちょっとマジキモいwww」

「ほんとマジキモいんですけどwww」

「じゃあ指切りしてほしいの」

「あーいいしょっ!!」

「もーマジエモい!!」

「ほんとwww」

「「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます」」」

「指切りげんまん嘘つかなくてもぶちのめす!!」


「「「「指切った!!!!」」」」


「!?」


 その途端、三人は吹き飛ばされ近くの木の幹に叩きつけられ、、、そして全く動かなくなった。


「、、、」


 僕は背中に冷や汗を流したんだ。

 だってだって、、、、

 僕も以前、同じことをやった覚えがある。

 それもはっきりと。


「ん。上出来、綺麗になった。やっぱりゴミはすぐに片付けるべき」



 そこにはドヤった顔の幼女が勝ち誇ったように僕を見つめていたんだ。








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 パトo(`・ω´・+o) ドヤァ:ん。ゴミ掃除はすぐに終わらせるべき



 ●登場人物

 シュガール:本編の主人公。元貴族の人形使い。

 パト:赤茶色の髪がトレードマークの幼女。演技と猫を被ることは得意。

 両天秤の三人:チャラけた男性とギャルっぽい美人の女性二人組のパーティ。


にんじん太郎さん(https://kakuyomu.jp/users/ninjinmazui)のご好意により紹介動画を作成していただきました。


合わせてチャンネル登録もどうぞ。


https://www.youtube.com/watch?v=2Cjy5Owlhf0




ぜひご覧ください。

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