4幕:人形使いは運命の出会いをする 下
僕は泣いていた。
間違いなく自惚れていたんだ。
無残にも右腕が引き裂かれたホットル。
そして左手が離れ離れになったコルドル。
激闘の末、僕はコボルターどもを討ち取ることができた。
だがその分、代償も大きかった。
引き換えにホットルとコルドルが無念の重体だ。
ただし本人たちは視線を合わせる度に小さな頭をゆっくり左右に振っている。
問題ないらしい。
でも女将さんにはお世話にならなければいけない。
僕から見れば重症だからだ。
それに問題は別にあって、、、そうさ、あの『筋肉乙女』に鉢合わせする可能性があるだけなんだ。
「あ~ら~シュガールちゃん、私に会いにきてくれたのねぇ~。今日こそ手取り足取りおしえてあげるわ~」
脳裏に浮かぶ地獄の光景。
筋肉と筋肉とのゼロ距離での語り合い。
冗談ではない。
エンカウントした瞬間、またあの地獄が始まるのだ。
そんな僕の修羅場に気づいたのだろうか、、、老年のメイドさんは僕に優しく語りかけた。
「冒険者様、私どものために申し訳ございません」
「喋らないでください、深手なんですよ。応急処置します、すぐに町まで連れ帰りますから」
「いえ十分です。私はもう無理なんでしょう。だからせめてこの子をこの子をお願いしたいのです、、、」
「この子はいったい?」
僕が疑念を抱いていると、遠くからコボルターたちの叫び声が響き渡った。
くそっ!!
1匹ずつだったらそんなに強くない奴らはその頭数に応じて強さが変わってくる。
群れれば群れるほどとても厄介な魔物だった。
僕にはまだ力が足りない。
経験が足りない。
「さぁお願いします!!」
それが最後の言葉だった。
僕は彼女から小さい子供を奪い取ると後ろを振り返らずに走り出した。
背中越しに多くの魔物の唸り声が追ってきている。
森の中の足場が悪い中、僕は必死に走った。
こんなに全力疾走したのは生まれて初めてだ。
だがこのままでは追いつかれるのは時間の問題だった。
「ボーン!!町に先行して助けを呼んでくれ、、、このままじゃ逃げきれない」
僕たちの中で一番早く走ることとができるのは『犬のボーン』だった。
小さい子供を抱きかかえたままでは逃げ切ることは難しいか。
ならば僕はショートソードの柄を握りしめた。
その時だった。
僕の背中にしがみついていたホットルとコルドルが頷いて、、、
そして飛び降りた。
二人は大切な主人に残された片腕を振り上げた。
【【
わかっている。
わかっているんだ。
何を言いたいのかが僕にはわかるんだ。
彼らは命を賭して時間を稼ぐつもりなんだ。
僕にもっと力があれば、、、絶対に絶対に後で助けにいくから!!
僕は心に誓い走り出した。
ホットル!!コルドル!!絶対に後で助けにいくから!!
目から溢れ落ちる熱いものを両手でぬぐいながら僕は前に向けて走り出したんだ。
町まで後少しの距離だった。
森の出口際、ついに僕はコボルター10匹に追いつかれた。
服も下着も汗でベトベトだった。
そのくらい僕は必死に子供を抱きかかえ逃げていた。
すぐ側に大きな湖がありそこへと流れ込む水の音がはっきりと聞こえてくる。
だがもう無理そうだ。
「ウイッシュ、ハニー、この子を木の上に避難させて、そのままあいつらを寄せ付けないで!!」
ハニーとウイッシュが頷きながら子供を抱え大木に登っていく。
「時間稼ぎだ!!ボーンが絶対こっちに助けを呼んでくる!!だから僕たちはここで絶対生き延びるんだ!!それが二人との約束だからだ!!」
大きな大木を背に身構えた。
背中を大木で隠し少しでも死角を減らしショートソードを牽制の意味を込め前に突き出す。
今こそ使う時だ。
これはあの担当教官を倒すために身につけた技の一つ、そして今使える僕の最終手段だ。
人形使いとして使える術はまだ多くない。
それに冒険者に成り立ての僕は弱い。
だが僕の人形を操る能力は弱くない。
だから弱い僕は大切な仲間である強い人形たちと戦うんだ。
僕は両手を地面につけ唱えた。
【人形創作!!】
僕の手から魔力が解き放たれ大地に流れ込んだ。
あまりの異様な気配にコボルターたちが唸り声をあげ警戒感をむき出しにしている。
そうさ間違っちゃいない。
この術は僕の今の切り札、僕の手足となる人形たちを作り出す能力だ。
僕の魔力が捧げられた大地が盛り上がり人型にせり上がっていく。
そしてついに木材や落葉、泥や石でできた5体の人形が魔物の前に立ちふさがった。
駄犬どもめ、この僕を舐めるなよっ!!
------------------------------------------------------------------------------------------------------------
ホットル、コルドル( ・`ω・´)・`ω・´)キリッ.:ここは任せて先にいけっ!!
●登場人物
シュガール:新たな術を獲得した主人公で銀髪の少年。
騎士のホットル、魔法使いのコルドル:MK2となったシュガール最初の相棒のぬいぐるみ人形たち。
熊のハニー、犬のボーン、猫のウィッシュ:シュガールの大切な2期目のぬいぐるみ人形たち。
筋肉乙女:シュガールの担当教官。実力者として有名なBランクの冒険者。元男の乙女でありシュガールを心から味わった。
女将:筋肉乙女が世話になっている宿屋の女将さん
コボルター:2足歩行のイヌ型の魔物。群れると厄介。
にんじん太郎さん(https://kakuyomu.jp/users/ninjinmazui)のご好意により紹介動画を作成していただきました。
合わせてチャンネル登録もどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=2Cjy5Owlhf0
ぜひご覧ください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます