拝啓親友、訳あって神様になりました
良夜
前略
拝啓 僕の親友
新緑が眩しい今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
ゴールデンウィーク初めに君が転校したと知り、僕をはじめとするクラスの人達は驚きと戸惑いでいっぱいでした。こんな大切な事を何も誰にも言わずに突然姿を消してしまったことに憤りを感じますが、確かに君ならやりかねないことを、経験上僕は頭が痛いほどに知っています。仕方がないので今回も許します。
君は本当に突発的なことが好きですよね。今年の四月に雨が降っているにも関わらず、『花見しようぜ!』と家に乗り込まれ誰もいない公園で男二人雨に濡れながら食べたコンビニのおにぎりの味は忘れられません。後、僕は無事だったにも関わらず、君が翌日高熱になったことも忘れません。だからあれだけ傘を差すかレインコートを着ようといったのに。クラスのみんなには『馬鹿は風邪引かないっていうけど、え?』と二度見されました。あれは暗に僕の方が馬鹿だと思われたのでしょうか。一応僕は君よりも頭の出来は良かったはずなのですけど。
話が逸れました。急に居なくなってどこか穴が空いた教室ではありましたが、きっとこれまでの様に時は流れていくと思います。君は少し不本意かもしれないけど。
ところでこれを読んでいる君はもしかしたらどうして僕がこんなにも他人行儀にクラスのことを話すのか不思議でたまらないかもしれないですね。君は意外にも僕に関しては少しの変化も見逃さないから。そうです。他人行儀です。何故なら―
「あ、書類描き終わりました?」
無駄に装飾が凝っている執務室の扉が薄く開き、黒髪をツインテールに結い上げた少女がひょっこりと顔を出し入ってくる。幼さが全面的に表れており丁度可愛い盛りの子どもではあるのが、その金色の瞳にはあからさまに『さっさと仕事を終わらせろ』と語っていた。おまけに机上に乗っている手をつけていない書類を見つけて不機嫌になる。眉間に皺まで作って、大きな溜息を吐いている姿は今の僕をどうしようもない子を見ているようだった。こいつ、一応は僕の子どもなのに何故こんなにも生意気なんだ。いや、終わらせてない僕も僕ではあるんだけれど。あとノックしなさい。
「早く終わらせてください。今日は下に行って美味しいもの食べさせてくれるのでしょう!私、アイスが食べたいです。白とピンクと、この間見かけた紫色のやつ。可能であればパチパチとなるものと、水色のやつが食べたいです!」
「はいはい」
「それと、それと、できればコーンで食べたいです」
アイスを詰むんです!と僕の側に近寄りキラキラと目を輝かす少女を見るとやっぱり姿相応だなぁとしみじみ思う。食欲旺盛で大変よろしいが話に出るやつアイスのことだけだな。どうにかして他の食べ物に興味を持たせなければ。今はちゃんと食べることが少女にとっては一番大切なのだから。
残りの書類はもう後数枚。正直なところ未だに執務には慣れていないけど多く見積もっても三十分ぐらいで…
「おい!どういうことだよ、これは!!」
バキッと嫌な音がして、それが扉の破壊音と気付いたときには彼が仁王立ちで僕を見下げていた。無駄に背が高くて服の上でもしっかりとわかる引き締まった体、そして圧倒的な程不機嫌なオーラ。この人のせいで僕は今まで知らなかったストレスによって引き起こされる胃が痛いという思いをすることになっている。ちなみに少女は僕の座っている椅子の後ろに隠れていた。いつもなら文句の一つや二つ言うところなのだが突然のことに驚いたのだろう。珍しいこともあるものだ。
「今回は、何?」
「これに決まってんだろ!なんでここ開拓しちゃいけねーんだよ、意味わかんねー説明しろよ!!」
机の上に乱雑に置かれた数枚の紙は、この間彼が提案したもののを却下すると記した書類だった。ぐじゃぐじゃになっているものを見て相当お怒りのご様子。彼は自分の仕事に誇りを持っていて、しっかりと下の人の事を考えた上での提案をいつもしてくれる。尚更本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。これが、管理職か…。
「こら、そんなに乱暴にしないの!大人しくしていなさい、貴方よりもこの御方の立場が上ですのよ!」
パンッと彼の頭から小気味良い音がした。後ろから現れた女性は全体的にふわふわとした雰囲気を出しているにもかかわらずすぐに手が出る。口調も丁寧な筈なのにどこか威圧感が含まれていた。僕は彼に隠れて近づいて来ているのが分からなかったが壊れた扉からまた新たな問題がやって来たのは理解した。胃が痛い。
「ほらちょっとどいて下さいな。あぁ貴方様、ご相談がありまして参りましたの。ちょっとこの二人の間に泥棒猫が湧いて出て来まして、さくっと始末してもよろしいですか?」
よろしくないです。人の恋路を見守るのはいいけど貴女みたいな全てを包み込む優しい母親的な雰囲気の方から始末とか聞きたくない。
「勝手に話を進めるな!」
「貴方はもう片手では数えられない程この方に説明して貰っているはずです。それよりも私の方が優先ではなくて?」
ぎゃいぎゃいと騒がしい。とりあえずはこの場を収めなければいけない…がこういつも、いつも飽きない方達だ。
苦笑いと呆れの笑みを浮かべていると小さく服を引っ張られる。少女がぷくりと頬を膨らませまだ終わらないのかと目で問いかけてくる。本当に感情も豊かになった。成長に自然と笑みが零れる。
「すぐに終わらせるからお前も手伝えよ」
頭を撫でる。たったそれだけで満足そうに、言質は取ったぞと言わんばかりに破顔しその場でくるりと回った。機嫌が直ったらしい。
「超特急で終わらせましょ!だからご褒美にアイス買ってくださいね、神様!」
神様。GOD。親友よ、僕は残念ながら死んで現在どういう訳か神の座に着いています。なんとなくお前が原因の様な気がして仕方がないのですが、どうでしょうか。
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