第138話 瀬戸内の海は遠く白く
亮と2人きりの部室。私は亮の隣に椅子を並べて肩を寄せて座る。
窓から入る梅雨入り前の爽やかな風がカーテンを揺らし、その心地良さに眠ってしまいそうになる。
亮と付き合うことになって、安心感を手に入れた。嫌われたらどうしようと考えていたのがバカバカしくなるほどの大きな安心感。
2ヶ月前に亮と偶然同じクラスになって、たまたま隣の席になったことが、私に今までに経験したことのない無い幸福感をもたらした。
亮だけじゃなくて美咲やお嬢や宮子や
ずっとこの時間が続くことは無いけど、
「入るよー」
美咲とお嬢が来た。香風や宮子もそうだけど、私が亮とくっついていても冷やかしたりせずに、それが当たり前のことのように普通に接してくれる。ありがたい。
「野球部はどうだった?」
「はい、良い感じでした。また見に行きたいと思います!」
お嬢が嬉しそうに言った。何か良いことがあったみたいだ。
「岡本くんて、太郎って名前なんですね」
「そうだよ、芸術は爆発だっ」
「亮くん、名前で人をからかったら駄目ですよ」
なるほど、気になる人ができたんだ。良かった、お嬢が次の恋に進めるならそれは良いことだ。
「入るぞー」
今度は真知子先生が入ってきた。
「今日は香風は休みか…うむ、次に勢揃いしたら、新しい目標を決めたまえ」
『はい!』
今回のライブは本当に楽しかった。学校で寝る時間も惜しんで活動出来た。また面白いことをやりたい。
「漫研終わったよー」
いつもの通り、宮子もやって来た。
「コーヒー飲みたいやつは手をあげろー」
宮子が手をあげて、真知子先生がコーヒーを淹れる。窓から入る風がコーヒーの香りを部室に広げる。
私は美咲の入れる日本茶を飲む。
「亮くんは紅茶ですよね!」
私の紅茶を誰も飲まないとか有り得ない、と負けじとお嬢が言う。
亮は苦笑いをしながら紅茶を飲む。
「みこ、そろそろ帰ろう」
「ん?え?」
亮に起こされた。落ち着いた時間の中で、私はいつの間にか寝てしまったようだ。
「みこって言うな…うん、帰ろう」
この学校は山の中腹にある。正門に向かうスロープの横にあるプラタナスの木の向こう側には、
私はここから見えるこの風景がとても好きだ。
「亮、今日は歩いて帰らないか?」
「うん、良いよ!でも眠気は大丈夫?」
「大丈夫」
私たちは人目を気にせずに手をつないで、ゆっくりと坂道を下って行った。
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