第133話 祭りは終わり少しずついつもの日々が戻ってくる

 ロッカーを移動して暗幕を外し、机や椅子を片付ける。隠しておいた先生の私物を取り出す。だんだんと元の部室に戻って行く。


 やっぱりあたしは物悲しい気分になる。楽しかったことも、いつか終わりが来る。

 同好会の活動は始まったばっかりだけど、3年先、ここにあたしたちは居ないんだという寂しさがあたしを包む。


「漫研終わったよ~」


 宮子が入ってきた。コスプレ衣装を持っている。


「ん?美咲、大丈夫?」

「うん大丈夫、えへへ」


 宮子とは付き合いが長いから、表情を読み取られたみたい。ちょっと泣きそうになった。ずっとこんな付き合いが続くと良いな。


「コスプレ衣装、ここに置かせてもらっても良いよね!」


 どうやら宮子はうちの部室でホントにコスプレをするつもりのようだ。


「空いてるロッカーに入れておいたら大丈夫だ」

「お、部長の許可が出た!じゃあこのロッカーにしよっと」


 するとお嬢が眉をひそめて宮子に言った。


「宮子さん、ちゃんと鍵をかけてくださいね。うちの同好会、痴漢がいるんですよ」

「亮っ!女子の服に興味を持つとは、痴漢じゃなくて変態だ!」

「なんだよそれ、何にもしないよっ!俺はみこにしか興味が無い」

「みこって言うな…そ、そうか、私だけに興味があるんだな」


 真っ赤になるまどろみさん。可愛い。


「あ、そうだ、暗幕を生徒会室に返しに行ってくるね」


 あたしは生徒会長に会いたかった。ゲリラライブのおとがめが無くなるように配慮してくれたお礼がしたかった。


「美咲、私もついてくよ~」


 暗幕を持って宮子と生徒会室に向かった。


「美咲、さっき悲しそうだったよ、大丈夫?」

「宮子にはバレちゃうね、なんて言うのかな…祭りのあとの静けさって言うやつかな、今見てる景色はずっと続くことはなくて、いつか終わるんだなって思ったら悲しくなったの」

「そっか~、美咲は変わりゆくものに敏感だよね。街の写真を撮り歩いてるのもそれだもんね」


 そう、この街の姿もどんどん変わっている。いつか昔の景色の記憶が薄れてしまうのかも知れないと思うとそれは悲しい。だからあたしは写真に撮って記録している。


「いつか終わるから、今こうして皆と居る時間がホントに大切」

「思い出になるようなこと一杯しとかなきゃね~、例えばコスプレ!美咲もやろうよ」


 いや宮子、それはちょっと恥ずかしい。


「大丈夫だよ。美咲は大人になったらコスプレしなさそうだから、今しかないよ。私は大人になってもやるけどね」

「まあ考えとくね」


 生徒会室に着いた。


「失礼しまーす。暗幕を返しに来ました」

「ご苦労様。ライブ、大盛況でしたね」


 生徒会室には会長だけが居た。


「色々とご迷惑をお掛けしました」

「迷惑?いえ、楽しませてもらいました。それに許可印付きの申請書が有るんですから、堂々としていてください」

「それなんですけど、どうして許可を?」


「生徒会長になった時に叔母さ…宮前先生に言われた言葉があります。「学校の代弁者になるな、生徒のための会長になれ」と。だから私は…」


 会長は胸ポケットから何度も読み返してボロボロになった生徒手帳を取り出した。


「ここに記載されている校則に反しない活動は認めたいと思っています。実行委員長は、私が背後に立ったらあっさり申請書に判子を押してくれましたよ。わからず屋の風紀委員長の首根っこは掴むしか無かったですけどね」


「世の中には生徒と生徒会の対立の図は山のように有るのに、会長は生徒側の人なんですね」


 にっこり笑う会長。真知子先生の笑顔と似ている。


「校内ライブの安全面は危惧されましたが、宮前先生が「あの連中は大丈夫だ。私の名において保証する」と仰いました。あの先生がそう仰るなら絶対に大丈夫。あなた達もそう思いますよね?私も安心して判子を押せました」


 真知子先生、裏でそんな根回しをしてくれてたんだ。やっぱり良い先生だ。


「ただ、宮前先…叔母さんと私の勝負が有ったので、許可印付き申請書は最後まで渡さなかったんです。それについては、ごめんなさいね」


「結果オーライ、だよね、美咲!」

「うん!あ、でも会長が勝ってたら申請書はどうしてたんですか?」


「その時は…」


 会長はニヤリと笑った。やっぱり真知子先生そっくりだ。


「勝者にほどこしを受ける屈辱感を味わってもらいながら渡すに決まってるじゃな~い」


 怖い、宮前一族って、ちょっと怖い。





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