第134話 真知子先生の締めのひと言
暗幕を返して部室に戻ると真知子先生が来ていた。
「お、ご苦労。上等なコーヒーを入れたぞ。剣谷さんが持ってきてくれたエスメラルダ農園産のゲイシャだ。宮子はもちろん飲むよな。美咲も試しに飲んでみろ」
「あたしはコーヒーはちょっと苦手です…」
「美咲さん、紅茶派の私ですがこのコーヒーは美味しいです。高いみたいですし飲んで損は無いと思います!」
そこまで言うならと、試してみた。確かに不味くは無いんだけど、美味しいかどうかと聞かれたら、他のコーヒーの味を知らないからわからない。
「やっぱりあたしは日本茶が一番!」
ずずっと熱い日本茶をすする。ようやくホッとひと息つけた。
「では先生、締めのひと言をお願いします」
部長のまどろみさんが先生に言った。
「うむ、締めのひと言か、では」
先生は立ち上がった。あたしたちは居住まいを正した。
「最初は
そう言うと先生は座ってコーヒーをゆっくりと飲んだ。
「と、まあ学校の同好会活動だから顧問として教育的なことを言ったわけだが、そんなに堅苦しく考えなくていいぞ。この学校での3年間という時間を同好会でもそれ以外でも無駄に過ごさないでくれ。将来この3年間が君たちの
『はい!』
「いまの録画したか?
「はい、しっかり録画しました!」
もちろんだ。最初は色々あったけど香風もあたしたちの大事な仲間だ。
「じゃあみんな集まって、集合写真撮るよ!」
「美咲、撮ったげるよ。私、漫研だし~」
そうだった。違和感なく同好会に溶け込み過ぎだよ。でもね、宮子は凄く支えになってたよ。
「じゃあいっくよ~、ラブ・アンド…」
『ピース』
「宮子さんも写りましょう、今度は私が撮ります」
「え?部外者だけど私も写って良いの?じゃあ…」
宮子は胸ポケットからスマホ用三脚を取り出した。なんでそんなもん入ってるの?ドラ○もんのポケットなの?さっきライブの撮影に使った自撮り棒はどうしたの?
机の上にスマホを設置してセルフタイマーを設定した。あれ?3秒って間に合わないんじゃない?
「私は右端に行くね~、ラブ・アンド…」
ピッ、セルフタイマーが作動したのに宮子は何故かゆっくりと向かってきた。カシャ。
「はい、お約束~…いっぺんやってみたかったんだ~」
宮子はセルフタイマーに間に合わずにずっこける人のポーズで写った。うん、面倒くさいよ宮子。
そのあと宮子もちゃんと写った写真を撮ってひと段落。明日の打ち上げには宮子も来てもらうことになった。先生にも来て欲しかったけど、気を使うだろうから君たちだけでやりたまえと辞退された。
「じゃあ私は職員室に戻る。カギはあとで持ってきてくれ。あ、そうだ、冷蔵庫は夜陰に紛れて運び込むから、置き場所をちゃんと空けておいてくれよ」
先生は颯爽と戻って行った。明日の打ち上げは香風の都合を聞いてから時間を決めることになった。
「場所なんだが、美咲、カラオケに行ってみないか?」
「カラオケ…」
あたしは小学生の時に歌えなくなった。だからカラオケに行った事がない。ずっと避けて来た。
「美咲、行こうよ~。無理に歌ってなんて言わないから。ね?行ってみよう」
「美咲さん、行ってみましょう!」
「俺の歌を聴いてくれ!」
皆が行こうって目で訴えている。
「う、うん。行ってみるよ」
『やった~!』
皆と一緒なら大丈夫。歌えそうなら歌ってみよう。あたしはそう思った。
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