第131話 北高祭2日目 飲食模擬店にて

「みこ、俺たちも色々見て回ろうよ」

「みこって言うな…そうだな、せっかくのお祭り、他のイベントも見ないとだめだな」


 本当は眠いから寝たいけど、亮と北高祭を見て回りたかったから誘われて嬉しい。戸締まりをして私たちは部室を出た。


「お腹すいたから飲食模擬店行こう!」


 飲食模擬店は2年生がクラス毎に参加する出し物で、業務スーパーなどで食材を安く仕入れひと手間加えて売るというものだ。


「みこ、何食べる?」

「みこって言うな…ん~、たこ焼き」


 昼過ぎということもあって行列が長い。普段の私なら食べ物のために列に並ぶなんていうことはしないけど、亮と一緒だから苦にならない。


 ほんの2ヶ月前まではほとんど友達も居なくて家と学校で眠る毎日だったのに、今こうやって男子と一緒にたこ焼きの列に並んでるのが凄く不思議な感じだ。同好会で歌ったことも、メッセージアプリで友達とトークをしていることも夢みたい……夢?!これはまさかの



「夢オチ?!」


 意識が薄らいだ。





「みこ?!急にどうした?寝落ちしそうなのか?!」


 亮に支えられていた。急な眠気でフラついたようだ。


「みこって言うな…あ、ありがとう、大丈夫だ」


 良かった、私の今までの日々と比べて、この2ヶ月の出来事は夢のようだったけど夢じゃない、これから先もずっと続いてほしい。夢オチなんて許さない。


「あ、亮とまどろみさん、ライブ良かったよ!」

「髪の毛お団子にしたんだ、明るい感じで似合ってるよ~」


 近くを通りかかった同じクラスの女子が声を掛けてくれた。クラスに受け入れられているという感じも、まだ慣れないけど嬉しい。


 私がこんなに変わったのは、同好会を作ったからではなくて、集まってくれたのが亮や美咲、お嬢に香風このか、部員じゃないけど宮子だったから、そして何よりも顧問が真知子先生だったからだ。そうでなければていで集まったままバラバラだったに違いない。本当にありがたい。


「ありがたいから、こうだ」


 私はたこ焼きを1個、亮の口元に運んだ。


「え?」

「だから、こうだ」

「ん?」

「お、お前は鈍いのか?食べろというんだ、はいっ」

「それ、あーんって言わなきゃ」

「い、意地悪だな、ほら、あーん」


「うまい!みこ、ありがとう!」

「みこって言うな…」


 顔が真っ赤になっているのがわかるくらいに熱い。


「みこ、フライドポテトも食べよう!」

「みこって言うな…えっと、フライドポテトはこっちの模擬店だ」


 模擬店の2年生が申し訳無さそうに、


「ごめんね~、フライドポテト売り切れたの」


と言った。もう昼過ぎだからそれも仕方が無いか。


「違うの、さっきコスプレした女子が残りのポテト全部買い占めてったの」


『ぜったい宮子だ』


 私と亮は顔を見合わせて大笑いした。


 

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