第108話 北高祭初日 収支計算

「ふ、やはり私の総合優勝ですね」


 部室でのライブが終わり、2回目の握手会はお嬢の圧勝となった。


「うん、良かった。おかげで亮以外の男子と手を繋ぐ回数が減った」

「うん、良かった。おかげでみこが他の男子と手を繋ぐのを見る回数が減った」

「みこって言うなっ」


「お二方ふたかたとも、それは負け惜しみですね。まあいいです。第1回合奏同好会握手選手権の勝者は小清水泉であると、この同好会の歴史に孫子まごこの代まで刻まれる事でしょう」

「そんな選手権無いっての、それより握手券の売上だけど、416枚。同じ人が何枚も買ってくれたりしたから結構売れたわ」


 その中でも一番大量に買ってくれたのは、あたしと同じクラスの坊主頭の…名前何だっけ…その男子が20枚も買ってくれた。1分も握手し続けて、さすがのお嬢も少し笑顔がひきつってた。


「でもあの坊主頭の人は私のピアノを褒めて称えてくれました。悪い人では無さそうです」

「次回は30枚くらい買ってもらいなさいよ。今回は1枚50円だったからコピー代を差し引いても2万円ほどの利益よ。打ち上げでパーッと使いたいわね…焼肉食べ放題とカラオケで歌合戦!あ~ぁ、没収されない良い手はないかなあ…」


 考え込む香風だが、生徒会長の言う「大金を持つとロクなことに使わない」とはきっとこの事だ。


「さあ、いよいよゲリラライブね。明日は来れないからプロデューサーとして最後に一言言わせてもらうわ。今日大盛況だったから明日も絶対大勢の人が見てくれる。ライブ現場は大混乱、そこに生徒会や先生が来てもすぐには近付けない。ますます混乱する現場。その混乱に乗じて逃げなさい。きっと協力者が現れるから大丈夫よ」

「そんなにうまく行くかなあ」

「大丈夫、うまく行く。今日のライブでわたしたちのファンは確実に増えた。各自推しメンに協力してくれる。お嬢の重たい電子ピアノも誰かが運んでくれるわよ。わたしたちは「一緒に撤収に参加できるアイドル」を目指そう!」


 いやいや香風、あたしたちはアイドルになりたい訳じゃないよ。でもまどろみさんが、


「香風、それ良いな」


と言うと、今度はお嬢が


「私たちアフタヌーン・スリーパーズはファン参加型のアイドルを目指すんですね!」


 アフタヌーン・スリーパーズ?何?いつの間にグループ名が決まったの?

 そしていつものパターンで、じっとあたしのほうを見てきた。


「アフタヌーン・スリーパーズの美咲で~す。裏方でーす」

「美咲さん、何を言ってるんですか!歌練を続けていつかはバックコーラス、そして最後には憧れのセンターの座を掴み取って下さい!私の歌練についてくれば大丈夫です!」


 三段落ちじゃなかったの?本気で言われてしまった。いつかはバックコーラス…トラウマで歌えなくなっていたあたしだけど、お嬢ならあたしを憧れのセンターにまで押し上げてくれるかも知れ…いや、ちょっと待って、あたしはアイドル目指してないよ。


「明日はきっと大成功。アフタヌーン・スリーパーズの名を学校中に広めよう。孫子まごこの代まで語られる伝説の1日を美咲はしっかり撮っといてね!」


 最後にあたしたちは円陣を組み掛け声を出した。このノリ、嫌いじゃない。このアフタヌーン・スリーパーズでバックコーラスとしてみんなと歌えるくらいにはなりたいと思った。


 …本当にアフタヌーン・スリーパーズなの?

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