第102話 大反省会

 最終的に東山くんは、電子ピアノをずっと貸してくれることになった。たまにノートパソコンを持ってきて、作った曲を演奏して取り込むかも知れないと言ってたけど、お嬢の居ない日は電子ピアノは使わないし、東山くんの物なんだから断る理由なんて無い。


 すぐに退部届を出すと言いだしたけど、部員だったほうが部室に出入りしやすいぞと先生に言いくるめられて、そのまま幽霊部員になった。

 部員じゃない宮子が普通に出入りしてることは黙っておこう。


 放課後、あたしの撮った動画を見ながら反省会をした。


 録画した動画に、男子がまどろみさんのことを言ってる声が入っていた。

「色っぽい歌い方だな」


「みこっ、他の男子にそんな目で見られるなっ」

「みこって言うなっ、あいつらが勝手にそんな目で見てるんだ、私に責任は無い」


 女子が亮のことを言ってる声も入っていた。

「チャンス有りだね!」


「亮っ!これはどう言うことだ、この浮気者っ」

「俺はなにもしてないっ」


「私を誉めて称える声が入ってませんね。美咲さん、ちゃんと録画しないとダメじゃないですかっ」


 お嬢を誉め称える動画じゃなくて、演奏を見るのが目的なんだからね。


「良かったと思うわ。演奏を聞きつけてわざわざ見にきてくれた人もいたし。惹きつけるものは有ったと思うわよ」


 香風このかはアイドルだから、貴重な意見だ。


「あとはゲリラライブ向けに、立ち位置をもう少し狭くして最後の仕上げね」


「入るぞー」


 真知子先生が入ってきた。いつもより早い時間だ。今日も職員会議をサボってるに違いない。


「反省会か」


 そう言いながら先生は机を動かし被せてあるカーテンの下からコーヒーメーカーを取り出した。


「あ、先生、色々と元の位置に戻すの手伝いますよ」

「いや、このままで良い。あのな…」


 先生は腕を組んでうむむという顔をした。


「大反省会だ。さっき、1時間おきにやるからお誘い合わせの上で来て下さいって言ったな」

「あ…」


 香風このかがしまったという顔をした。

 そうだ、土曜日は部室で大人しく公開練習をして、日曜日にゲリラライブという予定だった。すっかり忘れてた。きっと作者も忘れてたに違いない。


「すいません。反応が良かったのでつい調子に乗って言ってしまいました…」

「多くの人に聴いて欲しいんだろ。さすがアイドルだな。さっきの反応を見ても聴きに来る奴はかなり多かろう。教師も見に来るかも知れん。冷蔵庫は夜陰に紛れて運び出す、あとの物はひとまとめにしてカーテンでくるんで周りを机で囲んで近付けないようにするよ」


「冷蔵庫も隠しておけば大丈夫じゃないですか?」

「家電は教師陣に見つかるとマズいんだ。なんせ私は私物持ち込みの前科者…」


 前科者?あたしたちが入学する前になにをやらかしたの?


「まあそれは置いといて、ではこれを…」


 先生は胸ポケットから折り畳まれた紙を取り出した。北高祭活動申請書だ。生徒会長印は押されてないが、顧問印は押されている。


「校舎内ライブと書いて生徒会長に見せたんだが、具体的な場所を書けと言われて喧嘩…そのままにしてたんだ。適当なウソを書くわけにもいかんからな」


 先生は部室でライブと書き込んだ。


「部室でライブ、日曜日のゲリラライブは書き忘れとこう。でもウソは書いてないな。これなら生徒会の許可も降りるから提出しといてやる」


「あ、先生。冷蔵庫の運び出し、手伝いますよ」


 亮が言うと先生は


「生徒が夜中に学校に居るとマズいだろ。それに冷蔵庫くらい私ひとりで担げるぞ」


 担ぐ?あんな重たい物を?先生が冷蔵庫を担いでる姿を見てみたい。

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