第75話 オリジナル歌詞作り

 放課後。


 千歳のことも気になるけど、北高祭に向けてちゃんと練習もしないといけない。コピー曲は3曲とも順調なんだけど、可能であればやってみることになっているオリジナル曲は誰も歌詞を書けない。


「テーマを決めたほうが良いんじゃないかな」


 まどろみさんと肩を寄せ合いながら座っている亮が言った。


「うん、そうだな。このままだと何も思い浮かばないから決めた方が良い。さすがは亮だな、名案だ」

「うん、さすがは俺だな」


 2人のちょっとバカップルな会話に慣れたあたしたちは、スルーして話を続ける。


「例えば?」

「甘い愛の歌だな」


 まどろみさん…恋愛経験のないあたしと香風このかには、そのテーマはハードル高いよ。お嬢はどうなんだろう?


「愛の歌ですか、良いかもしれませんね。野球男子の歌を作れば良さそうですね」

「例えば?」

「そうですね…こんなのはどうでしょう」


 白球を追う後ろ姿

 流れる汗が情熱のあかし

 白球のように私を必死に追いかけてね

 バックホームでランナーアウト

 キャッチャーミットに飛び込む白球のように私を受け止めてね


「やめてええぇ、恥ずかしすぎるわよ」


 耳を塞ぎながら香風が絶叫した。確かに恥ずかしい。


「じゃあこんなのはどうだ」


 今度はまどろみさん。これもきっと…


 肩を寄せ合う2人

 放課後の教室に浮かぶ2人のシルエット

 温かさが伝わってくるけど

 膝の上に座ったら

 もっと温かい


「ぎゃあああああ、胸焼けする」


 足をバタバタしながら香風が再び絶叫した。


「じゃあ香風ならどんな歌詞を作るんだ?」


 恋愛経験の無い香風はどんな歌詞を作るかな…


 わたしはアイドル

 みんなのアイドル

 みんなに愛を分け与えるわよ

 みんなも愛をちょうだいね

 愛の形は物販購入

 サインはプラス千円よ

 ツーショットチェキは二千円


「露骨だな…」


 どんよりとした空気になった。


「じゃあ次は美咲」


 え、なんで?香風の歌詞で三段オチが成立したんじゃないの?どんよりしたからオチてないの?

 即興で歌詞を作るなんて出来ないよ。でもなんとかしなきゃ。


 セルフィーで撮るツーショット

 あなたが照れるから

 ほらフレームからはみ出した

 もっと近付いて撮らないと

 身体を寄せ合って

 ラブ・アンド・ピース

 …


「ダメええええぇ、これ以上は恥ずかしい」


 あたしは絶叫した。


「歌詞を作るのは難しいな…亮は?」

「俺は作曲するから歌詞は…」

「亮、それはダメだ。みんな恥をさらしてるんだから。それに亮の歌詞を聞きたい」


 恥って…まあ恥かあ。


「まどろみさんが言うなら仕方ないなあ」


 亮はギターを弾き始めた。


 まどろむ美少女♪

 寝顔がかわいい♪

 たまによだれが出てるけど♪

 それもまたかわいい♪


『曲まで出来てるうううぅ』


 でもダメよ。涎って、さすがにまどろみさんも怒るよね。


「亮、素敵だ」


『バカップルだああああぁ』

「却下よ却下。こんなの皆の前で歌えるわけ無いじゃない。何考えてんのよっ」


 再びどんよりとした空気になった。


「歌詞作りって、難しいな…」

「うん…」


「漫研終わったよ~」


 宮子が入ってきた。


「歌詞作りは菓子作りのように甘くないよね…なーんてね」


 宮子、また覗き見してたのね。


「甘い愛の歌と言えばカジヒデキの「甘い恋人」しか無いでしょ、MISIAじゃなくてカジヒデキのほうよ。詳しくはウィキ○ディア調べてね」

「あ、あの曲良いよね、歌えるよ」


 亮がギターを弾き歌い始めた。


「(著作権)♪」


 なにこの歌。甘い。甘過ぎる。デトロイトメタルシティって漫画が実写映画化されたときの曲…昔の曲だけど宮子が知ってるのは漫画絡みだからだ。でも亮とまどろみさんにはピッタリかも。


「なるほど、良い歌だな。こんな歌詞を作れたら良いんだが」

「考えてみるよ」

「うん!頼んだぞ亮、北高祭に間に合わなくても作ってくれ」


 北高祭はコピー曲を3曲に決まった。

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