第71話 呪縛

「つまり私は昔、千歳さんのみならず、おそらくは香風このかさんにも会っていたと言うことですね」

「うん、ツインテール女子はきっと香風だね。やっぱりお嬢もこの場所で会ってたんだ…」


 東屋あずまやの屋根に打ち付ける雨は更に激しくなり、雨樋あまどいの無い軒先からは滝のように雨が流れ落ちる。雨音で互いの声も聞こえづらい。だけどあたしはそれが気にならない。雨に濡れて肌にまとわりつく服も、冷えた身体の寒さも気にならない。恐怖で五感が鈍ってるみたい。


「亮くんのことが好きな千歳さんと過去に会ったことのある私たちが、現在亮くんを好きなまどろみさんの元に集まっている。そしてこの場所で千歳さんと会っていたことを、まさにこの場所で思い出す。その時必ず雨が降っている…皆さんこれを偶然だと思いますか?」


 お嬢は怯えるような目をして、真顔で言った。そう、あたしが感じている恐怖はそれ。千歳の見えざる力であたしたちは集められている…呪われている…。


「偶然だとは思えないわ」


 あたしが答えるとお嬢は即座に言った。


「いえ、偶然です」

「え?」

「美咲さん、顔から血の気が引いてるから、きっとそう思ってるだろうなと思って乗っかってみました」

「そうだよね~。偶然だよね、奇跡的な偶然。ほら雨雲レーダーを見て」


 そう言うと宮子はスマホのアプリで雨雲レーダーを見せてくれた。


「ほら、ここだけ局地的に降ってるんじゃなくて、けっこう広い範囲で降ってるよ~。朝の天気予報通り。だから千歳さんがここだけに雨を降らしているわけじゃ無くて、偶々たまたま降ってるんだね~」

「私たちがまどろみさんの同好会に集まったのは、偶然にも部活をていでやりたかった人たちだったからですよ」


 激しい雨音、濡れた服が気持ち悪いし強い風が体温を奪う。寒いなあ。


「でも、私たちは呪われていないですけど、千歳さんはのろわれているのかも知れません。亮くんへの想いに縛られて…」

「呪いに縛られる…呪縛だね~」


 亮が千歳を振ったあと、香風が責任を感じて2人の仲を取り持とうとした事で千歳には想いが残ってしまった。


「香風さんは悪くないです。私もその立場だったら同じことをしていたかも知れません。友達が悲しむ姿を見るのは辛いですから…ただその結果、亮くんと何とかなるかも知れないと思って千歳さんは想いを断ち切れずに縛られてしまったんだと思います。だから呪縛が出来てしまったんだと思います」


 恋に呪縛される。あたしには恋愛経験が無いからよく解らないけどきっと辛いんだろうな。


「私は2人の呪縛を解放してあげたいです」

「2人?」

「はい。千歳さんは私たちと同じ高校生の女の子です。呪縛から解放してあげないと次の恋に進めないなんて辛いじゃないですか。私はお付き合いしていた先生と突然別れて暫くは断ち切れなかったですけど、今は諦めがついて新しい恋に進めます。前に向くことが出来て毎日楽しいです。もう1人、香風さんは、告白するように勧めたことも、今の千歳さんの状況にも凄く責任を感じてると思います。自分を責め続けると言う呪縛です。大事な友達が呪縛されてるなら解放してあげたいです」


 お嬢ってこんなに情熱的だったんだ。知り合ってひと月、まだまだ知らない一面が有るんだな。


「そっか。うん、そうだよね。女子高生は元気で明るくなきゃね。あたしも賛成」

「私、ちょっと感動したよ~。私も協力するね」

「千歳さんに近しい香風さんにも相談して、皆でなんとかしましょう。そしてこの件をスッキリ片付けて、まどろみさんが亮くんとスッキリお付き合い出来るようにしましょう!」


 雨がピタリとやんだ。偶然…なんだよね?

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