第34話 USBメモリ

まどろみ子

〔今日の動画のデータが欲しいんだけどいいかな?〕


美咲

〔もちろんいいよ!〕

〔サイズが大きいからUSBメモリにコピーして明日渡すね〕


まどろみ子

〔ありがとう、時間のある時でいいよ〕

〔写真もお願い〕


美咲

〔うん!亮と一緒に写ってるやつだよね〕


まどろみ子

〔いや、そう言うわけじゃなくて〕


 焦ってる。やっぱりまどろみさんは亮に気がある。間違いない。そうなると千歳ちとせの存在が気になるなあ。

 美咲は亮にメッセージを送った。


美咲

〔3組の桜谷香風さくらだにこのかって知ってる?〕


〔なんで?〕


美咲

〔変な子だったから、西中の亮なら知ってるかと思って〕

 

〔知らないなあ〕


 嘘だ。本当に知らないなら〔なんで?〕とは聞き返さずに、すぐ〔知らない〕と言うはずだ。

 しかし知らないと言われたらこれ以上話を続けられない。千歳のことを直接聞くなんて絶対無理。どうしよう。やっぱりあたしは駆け引きが下手だ。

 西中にしちゅう出身の女子に聞いても良いけど、すぐに話が広まりそう、探りを入れてることを亮に知られたらマズい。女子の噂話は怖い。

 そうだ、亮の友達の坊主頭も…名前何だっけ…西中出身のはず、明日聞いてみよう。腕をねじったら口止めも多分大丈夫だ。亮の居るところでは聞きにくいからどこかに呼び出そう。


 美咲はメモ用紙に

「話がある 放課後、校舎裏に来い」

と書いた。


 何かの漫画で読んだことがある。放課後誰かを呼び出す時は下駄箱にこれを入れるんだよね。


 翌朝、美咲は早めに学校に行った。


 坊主頭の下駄箱は…確かここ、ふーん岡本って言うんだ。

 美咲は岡本の下駄箱にメモを入れた。


「まどろみさん起きて、おはよー。はい、USB」

「あ、ありがとう」


 微睡びすいは嬉しそうにUSBメモリを受け取り、すぐにスマホに挿そうとした。もちろん挿すところは無い。


「私のスマホには刺せないみたいだ」

「えーっと、まどろみさん。それはあたしのにも挿せないよ。パソコン持ってる?」

「いや、持ってない」


 微睡の表情はみるみる悲しそうになった。


「困ったね。どうしよう」


「そうだ、あの男子」


 微睡びすいは東山を指差した。


「パソコン関係詳しいはずだ、聞いてみよう」

「うん?あ、あいつね」


 いつもお嬢が逃げないように捕まえてと言う男子だ。


「捕まえたっ」


 美咲はいきなり東山の腕を掴んだ。


「痛いっ、なんだよ急に」

「まどろみさん、捕まえたよ!」

「ありがとう、東山、聞きたいことが有るんだ」

「わかったから離してくれ」

「逃げない?」

「逃げたこと無いだろっ」


 そう言われればそうだった。美咲は腕を離した。


「これをスマホに挿したいんだ」

「これは直接挿せないよ」

「どうすれば良い?」

「微睡さんのスマホは…Androidで、うん、この機種ならOTG対応だから…」


 東山は鞄からコードのようなものを取り出した。


「このUSBホスト変換アダプタを使えば出来るよ」


 OTG?ホスト?なんで女子を接客するイケメン男子が出てくるんだ?そもそもなんでそんなもの持ち歩いてる?


「よくわからないが、つまり出来るのか?」

「出来るよ」

「やってくれ」

「もう先生が来そうだから昼休みで良ければ」

「やってくれるんだな」

「良いけど、逃げないから腕を掴まないでくれ」

「わかった。じゃあ昼休み」


「良かったね、まどろみさん」

「うん」


 嬉しそうな微睡の表情。やっぱり応援したい。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る