第33話 練習

 香風このかは一体何を探ってるんだろう。千歳ちとせという子と亮の間に何が有るんだろう?


 部室の前に来ると亮のギターの音と微睡びすいの歌声が聞こえる。


 そっと扉に隙間を開けて様子を見る。やっぱり良い感じ。あたし邪魔者じゃないかなあ。

 しばらく様子を見ていたいけど、こんな姿を香風このかに見られたらあたしまで覗きをしてると思われる。いや覗いてるんだけどね。


「ごめ~ん、遅くなった」

「美咲、待ってた。あとで動画を撮ってくれ。歌の確認をしたいから」

「もちろん!あたしは記録係なんだから任せて」

「歌の確認か、まどろみさん、かっこいい」

「う、うるさい」


 亮にからかわれて顔を赤くするまどろみさん、もちろんこれも写真に撮る。

 2人の練習を見ている間も香風このかがまた覗いているんじゃないかと扉が気になる。

 香風と千歳…まどろみさんを応援したいあたしとしては、2人の存在はすごく気になる。なんで亮を観察してるんだろう。

 そうだ今のうちに…。


 美咲は何人かの友達にメッセージを送った。


美咲

〔千歳って名前の子、同じクラスに居る?〕


友達

〔千歳って苗字?居ないな~〕

〔苗字なら全員わかるけど、下の名前だとまだ知らない人もいるからわかんない〕


 確信を持てる返信は無かった。


 まあそうだよね、入学してひと月も経ってないから、下の名前まではわかんないよね。

 千歳が北山高校に居るのかどうかがわからない。


「美咲、そろそろ動画を撮ってくれないか?」

「うん!任せなさ~い」


 録音してある電子ピアノの音を繰り返し再生し、何回かギターと歌を合わす。

 泉がひとりで弾いて録音した安定した音。でも何か違和感がある。


「まあ、こんなもんかな」

「うん、歌はどうだった?」

「昨日よりよかったよ、さっそく再生してみよう!」


 昨日よりバランスの良い演奏。歌声も大きくなって聴きやすい。

 でもなんだろうこの違和感。


「入るぞー」


 真知子が入ってきた。


「今日は小清水は休みか、ピアノの音がしていたが録音か?」

「はい、泉が休みの時は再生して練習を。合わせるので聴いていただけますか?」

「いや、やめておこう。録音したものを聴いても意味がない。演奏者の生の感情が伝わらないからな」


 亮たちが感じていた違和感、それは泉の生の感情が伝わらない録音したピアノの音にあったのだ。


「昨日聴いたピアノの音は刺々しくて不快なものだったが、それが小清水の感情だ。それに対してこの録音された音は、小清水が練習のことを考えて譜面通り丁寧に弾いたものだろう。伝わるものが無い。ていなんだからそれで良いじゃないかと思うかもしれないが、楽器を続けるつもりならそこはこだわったほうがいい」

「はい」

「だが、録音を使って練習するというのは良いぞ。よく考えたな」


 相変わらず音楽に対して厳しい真知子だが、違和感を感じていた亮たちには納得のできる意見だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る