第19話 会議ってほど大袈裟じゃないよ

 選択科目の授業が終わると微睡びすいは亮に声をかけた。


「安井宮子にメッセージを送ってくれ。今日は美咲と帰るようにと」

「お、おう、わかった」


 微睡びすいは先日、植物園に独りで居たときに美咲や泉が来てくれたことが嬉しかった。泉の願いや美咲のトラウマをなんとかしたいと思った。


「お嬢と亮は放課後残ってくれ、作戦を立てよう」

「はい!」

「ピアノレッスンは大丈夫なのか?」

「ちょっと待ってください」


 泉は何やらスマホを操作し


「変更してもらいました。作戦会議の方が大事です!」


 泉は外部進学してすぐに出来た友達が困っているのを知って、そのまま帰ることは出来なかった。


「決まりだね。メッセージ送るよ」


〔まどろみさんから伝言で〕

〔今日は美咲さんと先に帰ってくれだって〕


宮子

〔わかりました~〕

〔まどろみさん寝てたけどしっかり聞いてたんだ~〕


 放課後。


「美咲~、今日体験入部は行かないことにしたから一緒に帰ろ~」

「えっと、まどろみさん、今日同好会は?」

「部室決まってから活動再開ってことにしよう」

「わかった!じゃあ宮子帰ろー、お嬢もいっしょに帰ろー」


 しまった「お嬢もいっしょに」となるのは当然の流れだ。うまくかわせるのか小清水嬢、そのまま帰ったりしないよな。亮は焦った。


「今日は野球部を見物して帰ります」


 あっさりかわしたー。


「お、念願の野球部観察だね。いい男居るかな~」

「美咲~、言い方良くないよ~」

「ごめんごめん、じゃあ先帰るね」


 美咲は宮子と帰った。


「で、作戦会議はどこでやる?あまり人に聞かれないほうがいいよな」

「美咲さんに嘘は付きたくないので、野球部を眺めながら作戦会議しましょう」

「会議と言うほど大袈裟なものじゃないぞ。教室で座ってるよりも外のほうが寝ないで済むかも知れない」


 グラウンドに向かうスロープの横に生えているプラタナスの下に3人は座った。

 野球のバックネットが正面に有り、野球部の様子もよく見える。


「私、昨日宮子さんに相談されて考えたんですけど、同好会の活動としてカラオケ屋さんに行って、美咲さんには活動記録の写真を撮ってもらうと言うのはどうでしょう?タイミングを見て美咲さんにも1曲…」

「それはダメだね。カラオケ屋に行く根拠になっても歌うことの根拠にはならないよ」

「俺もそう思う。そこで無理に歌わせたりすると、さらに傷つけるかも知れないよ」


 微睡びすいはしばらく考えると


「亮は歌うまいのか?」

「普通だなあ」


「お嬢はピアノを使って発声練習とかできるのか?」

「やったこと有りませんけど、出来ると思います」


「じゃあ亮、お嬢に発声練習をしてもらえ。もちろんていでいい。美咲が自発的に練習したくなるように。発声練習なら歌とは言えないから敷居が低いかも知れない」

「なるほど、まどろみさんは?」

「私は寝てるときに聞いた音楽はすべて記憶され完コピ出来るよ。発声練習に参加したら上手すぎて美咲が練習しにくくなる」


 完コピだって?まさか、と思うがまどろみさんなら出来るかもなあ。


「作戦決まりですね、名付けて「発声練習のてい作戦」うまく行くといいな。よいしょっと、間近で野球部見てきます!」


 泉はスロープを降りて行き野球部の部活を近くからじっくり眺めた。念願の野球部見物である。


 遠くに海が見通せる開けた場所にある北山高校は、時折強い風が吹き抜ける。4月半ばの夕暮れ時はまだ肌寒い。


「寒い」


 眠くなってきたこともあり、微睡びすいは寒さに震えた。


「風邪ひくなよ」


 亮は学ランを脱ぎそっと微睡びすいにかけた。


「え?…あ、うん」


 微睡びすいは顔が熱くなるのを感じうつむいて言った。


「あ、ありがとう」

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