まどろむ女子高生

柏堂一(かやんどうはじめ)

第1話 日之池亮

 (私と友達になりたい者はこのQRコードを読み取りなさい 微睡)


 北山高校入学式の日、式典が終わって教室に戻ると日之池亮ひのいけりょうの隣の席の女子は、画面が点きっぱなしのスマホを持ったまま机に突っ伏して寝ていた。その画面にはメッセージアプリの友達追加用QRコードが表示され、スマホの端に貼り付けられた付箋にはそう書かれていた。


 なんだこれ?微睡…びすいって、あ~東中ひがしちゅう微睡びすいみこさんか。


 東中学の微睡みこは亮の通っていた西中学でも有名だった。学校でも塾でも、授業中でも休み時間でも、いつでもウトウトしている女子。

 ついたあだ名はまどろみさん。いつも微睡まどろんでいるのに成績は常に学年トップ。まあ、この辺りの公立中学では順位を公開しないので、あくまでそのくらい頭が良いと言うことだろう。

 本人は睡眠学習をしていると言っているそうだが、実際は夜中に猛勉強しているんだろうという噂だ。


 なんか面白そうだ、とりあえず読み取って友達追加…と。友達リストに新着「まどろみ子」と言う名前が表示された。間違いなくこれが微睡びすいさんだな。


「おーす、亮、同じクラスになったな~」


 声をかけてきたのは同じ西中にしちゅう出身の岡本。


「おう、よろしくな~」

「なにやってんだ?」

「いや、これ」


 そう言って微睡さんのスマホを指差した。


「微睡…?なんて読むんだ?」

「びすいだな」

「びすい…お~、かの有名な東中ひがしちゅうの天才居眠り女子、まどろみさんか!友達追加したのか?」

「した、面白そうだからな」

「相変わらずヘンなヤツが好きだな~、オレはいいや」


 ヘンなヤツが好きとはなんだ、個性的なヤツが面白いと思うだけだ。


「亮は部活どうすんの?やっぱりバスケ部か?」

「いやバスケはやめるよ」

「マジか?お前は実績あるし背も高いし、絶対しつこく勧誘されるぞ、断りきれるのか~?」


 確かに自分で言うのもなんだが俺はバスケがうまかった。間違いなくしつこく勧誘されるだろう。しかし中学の時にある出来事が有ったので、高校では入部しない。バスケはもうやらない。

 おそらく先輩は「もったいないから続けろ」と言ってくるだろうが、そこは「もうやり切った」と言うつもりだ。


「やりました、読み取り成功!」

 茶髪ロングの女子がQRコードを読み取ったあと小さくガッツポーズをして席に戻っていった。


「今の子かわいいな」

「岡本…惚れやす過ぎるのは良くないぞ。すぐにコクるとかやめとけよ。高校に来ていきなり連続失恋記録が更新されるぞ」

「フラれる前提で言うなよ~、いろんな女子とお近づきになりたいな~」

「じゃあまずはQRコードを読み取れ」

「俺はヘンなヤツは苦手だよ~」

「ものすごい美人って話だぞ」

「マジか?!」


 ピッ、岡本は即座にコードを読み取った。意志の弱いヤツだ。

 それにしてもヘンなヤツきとは違うと言うのに、つくづく失礼なヤツだ。

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