第22話



「……む、無理ですか?」


 一言で片付けられると思ってもみなかったのか、来栖さんは口をパクパクと動かし、その後なんとか言葉を絞り出した。


「うん、無理だね」


「そ、それはどうしてですか?」


「今、言うことじゃないからかな」


 容赦ない緋郷は、付け入る隙が全くない。

 僕を相手にするよりも、確実にハードルが高い。

 そのことに、ようやく気がついた来栖さんは、深く深くため息を吐いた。


「……そう、ですか。無理なお願いをしてしまい、すみませんでした。今湊さんを、探しに行きましょう」


 少し可哀想だが、僕には緋郷が無理と言ったものを、無理やり言わせる権限はない。

 それに今湊さんを探し出して、大広間に集まれば、数分もしないうちに犯人の名前が分かる。

 今から考えれば、一時間は絶対にかからないはずだ。

 いい大人なのだから、それぐらいの時間は我慢してほしい。


 同情的に思いながらも、僕はどこか来栖さんに対し、厳しい意見を持ち合わせていた。


「それじゃあ、行こうか。サンタ」


「……うん」


「俺のことも忘れるなよな」


「えーっと、誰だっけ?」


「本気で言っているのか? さすがに冗談だよな」


「すみません、遊馬さん」


 いつも通り、未だに遊馬さんをきちんと認識していない緋郷に代わり、何故か僕が謝罪をする羽目になる。


「いいや、気にするな。俺も気にしていない」


 完全に気にしている遊馬さんは、こめかみに青筋を浮かべながら、無理やり笑顔を作っていた。

 僕に八つ当たりしないところは、大人な対応だが、これから今湊さんを探しに行くのかと思うと気が重い。


 グループを変えてもらおうかな。

 でも、今の来栖さん達と一緒にいる方が、罰ゲームに近いか。

 それなら、遊馬さんと探す方がいい。


「ええっと、行きましょう!」


 遊馬さんの機嫌をよくするため、無理に大きな声を出して、緋郷の腕を引っ張った。


「そんなに引っ張らなくても、ちゃんと歩くから」


 何か言ってくるが、完全に聞こえないふり。


「さあ、遊馬さんも!」


「お、おお……」


 僕の勢いに、引き気味だがついてくれば、こっちのものだ。

 強引なぐらいまでの力で、部屋の外まで連れ出すと、手の力を緩めた。


「さて、今湊さんを探すとしても、どこに行けば良いですかね?」


「そりゃあ、もちろん灯台のところじゃないのか?」


 遊馬さんが何を言っているんだ、そんな顔をしてきたのだが、よく考えてみて欲しい。


「灯台にいる可能性が高いってだけで、いないことだってありえますよね。最初は灯台に行っているかもしれませんが、いなかったら別の場所に移動しているはずです」


「ああ、それもそうか。それなら、しらみつぶしに探すしか無いのか?」


「そう、なりますね」


 この広い島の中で、探すのは労力がかかる。

 それでも緋郷が全員の前で話をしたいと言っているから、そのお膳立てをしなくてはならない。


「頑張りましょう! 僕なら、今湊さんを探せる気がします!」


「すごい自信だな。まあ、あのねーちゃんと仲が良さそうだったから、確かに何とかなるのかもな」


 僕と今湊さんとの関係性は、すでに周知の事実だったか。

 嬉し恥ずかし、その期待に応えなくては。

 更にやる気に満ち溢れてきて、僕は軽く掴んでいた緋郷の腕を揺らした。


「どこから行く?」


 人任せではない。

 緋郷に候補を出してもらい、僕が直感で選ぼうとしているだけだ。


「うーん、そうだなあ。あの人が行きそうなところだよね。それなら、いい所があるよ」


「どこ?」


「んー、サンタが好きなところ」


「それって……」


 確かに前は好きだったけど、今は色々な事情を知ってしまったから、微妙な感じになっている場所だろうか。

 口に出すと疲れてしまうから、心の中で説明しておく。


「カルミアの花のところ?」


「そうそう」


「カルミアの花? どこだそれは?」


 驚いた。

 遊馬さんは、あそこの場所の存在すらも知らなかったらしい。

 それか知ってはいるが、認識していないだけか。


「あの、こう小さい花の固まりが、色々な色で、その……アジサイみたいな感じの……それがたくさん咲いていて……」


 僕は上手くカルミアについて説明が出来ず、頭の中で色々なことを考えた。


「とにかく、行ってみれば分かります」


 そして、一番良いのは実際に見てもらうことだと、思い至る。

 百聞は一見にしかず、決して僕の説明が下手なわけではない。


「まあ、そうだな」


 遊馬さんも賛成してくれる。決して僕の説明が以下略。


「決まりだね。行こうか」


「いや、でもなんでカルミアのところ?」


「あそこ好きそうだから? きっと、あそこにいるはずだよ」


「おー、そんな理由か」


 まあ、僕がどこにいるのか候補を出してくれと言ったのだから、行くのは決定なのだけど。

 なかなか面白い理由だ。


「きっと、猫だって見つかるはずさ」


「それは期待だね」


 今湊さんも見つけられて、さらに猫もついていれば、なんてお得なのだろう。

 それが一番いい形なので、期待して行くことにしよう。

 緋郷が言ったのだから、絶対に大丈夫。


 変な自信を持ちつつ、僕達はようやく部屋の扉の前から離れた。





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