第7話



「グループで行動するように言われたんだからさ、みんなで仲良くしないと駄目だろう?」


 今日は、一体どうしたんだろう。

 緋郷がまともなことを言っている。


 僕は信じられなくて、何度も瞬きをするが、まともな緋郷が消えることは無かった。


「あ、そうでしたね。すみません」


「か、考えが足りませんでした」


 まともな言葉は、普通に効果があるので、二人は申し訳なさそうに眉を下げた。

 今まであったおかしな空気はすっかりなくなり、いつも通りの二人だ。


「そうそう。それでいいんだよ。今の僕達は仲間なんだから、何事も共有しなくちゃね」


 まともが継続中の緋郷が満足げに頷くと、ゆっくりと腕を上げた。

 その人差し指が示す方向には、カルミアの花畑があった。


「あそこで、ゆっくり話をしようよ」


 反論意見は誰からも出なかった。





 カルミアの花畑の下には、すでに鳳さんと飛知和さんが埋まっている。

 そう考えると、ただ美しいと感じられることは無くなった。

 とても残念ではあるが、ここは僕のものでは無いので、文句は言えない。


 それに死んでしまった二人にとっては、ここはいい場所なのかもしれないし。

 五人が座れるぐらいのベンチを見つけ、僕達はそこに座る。


 千秋さんはメイドという立場だから、最初は座るのを頑なに拒んだ。

 しかし緋郷が耳元で何かを囁くと、素直に座った。

 何を言ったのか凄く気になったが、聞いても教えてくれないだろう。


 それよりも隣に座った千秋さんの存在を、五感で堪能する方が重要に違いない。

 ここまで近づいたことがなかったから気が付かなかったけど、とてもいい香りがする。

 まるで花のような、どこかで嗅いだことのあるような、とても好感の持てる香りだった。


「いやあ、この組み合わせで話を出来るなんて、とても嬉しいね。決めたのは誰なのかな?」


「企業秘密です」


「まあ、そう言うか。決めた人にお礼を言っておいてよ」


「かしこまりました。伝えておきます」


「よろしくねえ」


 僕を間に挟んで、千秋さんと軽く会話をし終え、緋郷の視線は来栖さん達の方に向いた。


「二人は、どういう関係性なの?」


 そして、とてつもなく今更な質問をする。

 二人が恋人同士なんてことは、この島にいる全員の人が知っていると思ったが、例外がいたらしい。

 空気が読めなくても、さすがに察していると思ったのだが。

 とことん興味のないことには、関心を向けないようだ。


「あのねえ、緋郷……」


「サンタには聞いていないから。俺はこの二人に聞いているんだよ」


「は……?」


 二人の手を煩わせるのもあれなので、代わりに僕が答えようとしたのだが、バッサリと切り捨てられてしまった。

 口があんぐりと開き、衝撃から次の言葉が出せない。

 こちらは百パーセントの厚意しかなかったのに、何で少し怒られなければいけないのだろうか。


 僕は納得がいかなくて、口をつぐんだ。

 お望み通り、邪魔をしなければいいのだろう。


「わ、私達の関係性ですか?」


 改めて聞かれると恥ずかしいのか、賀喜さんは戸惑って頬を赤らめた。

 そして助けを求めるかのように、来栖さんの服の裾を掴む。


「そんな急に言われましても」


「恥ずかしいの? でも今までのやりとりより、恥ずかしいものってあるのかな? 俺は無いと思うけど。それよりも関係性をパパっと言ってしまった方が、楽じゃないですか?」


「それは」


 確かに。

 簡単に一言いえば済むことなのに、何故少し戸惑った表情を浮かべるのだろう。

 先ほどまでのいちゃつきの方が、確かに恥ずかしすぎる。


 何か簡単に言えない事情でもあるのかと、疑ってしまいそうになる。


「……私達は、恋人です……」


 しかし、何とかといった感じで、来栖さんは絞り出すように言った。

 本当に苦しそうだったので、今にも倒れてしまうように見えた。

 それを賀喜さんが支えて、緋郷を強い眼差しで睨んだ。


「わざわざ聞かなくてもいいじゃないですか。私と来栖さんは恋人同士です」


「ごめんごめん。ただ確認したかっただけだよ。そんなに怒らないで」


「……とても不快です」


 そこまで怒ることでもない気はするが、いちいち尋ねられるのが嫌だったというわけか。

 緋郷がデリカシーにかけていたのも確かなので、僕は特にはフォローをしなかった。

 別に僕自身、まだ拗ねていたからではない。


「本当にごめんって。でも二人が恋人同士っていうのは、ちゃんと理解したから。もう何回も聞きはしないよ。安心して」


「……はあ……」


 全く安心している様子は無いが、緋郷が悪意を持っているわけではないのを感じ取ったようで、彼女の怒りは上手くしぼんだらしい。

 もう少し怒ってくれた方が僕としては面白かったのだが、贅沢は言うまい。

 とりあえず、二人が恋人同士だということを再確認できたのだから、これはこれで収穫か。


「それじゃあ、次は何を聞こうかな?」


 これで終わりかと思えば、まだ緋郷は話し足りないようだ。

 それは別に構わないのだけど、安易にトラブルを起こすのは避けたい。


 しかし緋郷は地雷のいるところを喜んで進むし、踏んで爆発したって本人は平気である。

 その全ての被害を被るのは僕なのだから、少しは考えてほしいのだけど。




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