第58話
「犯人が、自殺するかもしれない? 一体どうしてだ?」
驚きから回復した鷹辻さんは、興奮気味に僕に近寄った。
さすがに声が大きいので、人差し指を唇に当てる。
「あっ、すまないっ! えっと、何で犯人が自殺すると分かったんだ?」
「僕が分かったわけではないです。緋郷がそう言ったんですよ」
「あなたは、いつもそれですね。相神さんの言うことを、全部正しいと思っているんですか?」
「はい、もちろんです」
二人共、呆れた顔をする。
そんな顔をされたとしても、当たり前のことだ。
緋郷が言うことが、間違っていた試しはない。
だから僕は、犯人が自殺をすると確信している。
それを止めたいので、二人に頼むことにした。
「さすがに犯人が死んで終わり、というのは僕としても夢見が悪いです。犯人には、安易に死を選んでほしくは無い。殺された二人のためにも」
僕の真剣な気持ちは、一応二人に届いてくれたようだ。
青ざめた顔は、血色が良くなっている。
「そうだな! 本当に犯人が自殺をするのかは、俺には分からない! でも、ここの全員を守ることには賛成だ! もう、もう、誰にも死んでほしくは無いからな!」
「……私も、ここにいる人達を守ることに、賛成します」
良かった。
これから先、何が起こるのかは全く予想が付かない。
そんな時に、この二人の助けを借りられるのはありがたい。
男手は、やはり重要である。
そうでないと、ここにいる全員を守り切るなんて不可能だ。
「ありがとうございます。手を貸してもらいたい時は、遠慮なく頼ませてもらいますので、よろしくお願いします」
「ああ!」
「はい。微力ながら」
最初はどうなるか不安だったけど、この組み合わせで良かった。
誰が決めたか分からないが、感謝をする。
きっとメイドの中の、誰かが決めてくれたのだろう。
僕は、時計を見る。
時刻は、五時二十分を指していた。
残り、四十分か。
大体話したいことは終わったので、話題が尽きてしまった。
このまま無言というのも、気まずくなってしまう。
さて、何を話したものか。
「なあ、今日灯台に行ったんだよな?」
「え、ええ、行きましたね」
話題を探そうと辺りを見回していたら、鷹辻さんが提供してくれた。
政治について話をしようかとまで思っていたので、とてもありがたい。
「中には入れなかったと聞いたけど、何かいなかったか?」
「何でそう思うんですか?」
「いや、ちょっと、冬香ちゃんがな! いや、でもいいや! 俺の気のせいだと思う!」
そこまで言われてしまったら、最後まで話をしないと気になってしまう。
「気のせいでも良いですから、教えてくれませんか? どんなささいなことでも、情報を共有することが大事だと思うんです」
「ま、まあ、それもそうか!」
ここで鷹辻さんは、内緒話をするように顔を近づけてきた。
来栖さんも気になったのか、顔を近づけてくる。
「あ、あのな! 一緒にいた時に、無意識なのかもしれないが、こう言ったんだ! 『今日は、私が食事当番の日だったわ。あそこまで持っていくのは、大変なのよね』って! 最初は俺達の食事のことかと思っていたんだけど、それにしてはおかしいだろ? だから、この島には何か動物でも飼っているんじゃないかと考えただけなんだ!」
「動物ですか……僕は見たことがないですけど、来栖さんはどうですか?」
「私も見たことはないです」
こんなにも広い島の中だから、猫や犬、熊がいたとしても不思議ではないが、今のところ見た試しはない。
そういうのがいたら緋郷のテンションも上がるだろうから、彼も見ていないはずだ。
鷹辻さんの口ぶりからして、槻木さんも見ていない。
五人中五人全員が見た事がない動物なんて、本当にこの島にいるのか。
「冬香さんに、そのことについて何か聞いたんですか?」
「ああ! その独り言について聞いてみたら、最初は誤魔化されそうになった! でも粘り強く聞けば、渋々答えてくれたんだ! どうやら、灯台の近くで飼っている猫のことだと言っていたんだが……いるのなら見てみたくてな!」
「灯台の周りを少しの間見ていましたが、そういった動物はいなかったですね。……ああ、でも」
僕は、灯台の窓に映った気がした、影について思い出した。
しかし、猫にしては大きすぎる。
「どうした?」
黙り込んだ僕に対して、鷹辻さんが首を傾げる。
何でもないと誤魔化そうとしたが、どんな些細なことでも情報提供をしようと先程言ったのは僕だった。
「灯台を見ていた時に、窓に影を見た気がするんです。でも本当に一瞬で、たぶん見間違いだと思うんですけど。でもその影は、犬や猫にしては大きかったので、関係無いですよね」
「いや、でも中にいるとしたら大変じゃないか?」
「そうですね。紛れ込んでいるとしたら、危険な状況です」
僕の言葉に難しい顔をした二人。
どこにいるのか分からない猫の存在が、こんなにも話をされるとは思ってもみなかった。
誰も存在を知らないから、終着点が見つからない。
話をどう終わらせたものか、そう思っていた僕は、とある人物の顔を閃いた。
いるじゃないか。
こういう時に、最適な人が。
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