第48話




「それでは、組み合わせには異論がないようですので、時間帯を決めましょう。話し合いで決められますか? それともこちらで、決める手立てをご用意致しますか?」


 異論が無いわけではなかったが、どうせ決定事項であれば、僕には言うことがない。

 時間帯か、それも別にこだわりはないのだけど。

 ここには子供はいないし、誰がどの時間帯でも困ることはなさそうだ。


「皆さんが構わないのならば、決めてもらった方が楽だと思いますが。この時間帯がいいという人はいますか?」


 誰も何も言わないので、特にこれという希望は無いらしい。


「それじゃあ、決めてもらって……あ、そうだ。誰も特に希望が無いのであれば、緋郷は二十一時から零時までにしてもらってもいいですか?」


「反対意見がないのであれば、別に構いませんが。あなたではなく、相神様のということでよろしいのですか?」


「はい。僕は何時でもいいですけど、緋郷は一旦寝てしまったら、たぶん何をしても起きないです。それなら、今から起きていた方が確実に寝ずの番が出来るはずです」


「そうですか。そういった事情があるのならば、そういたしましょう」


 一度寝てしまった緋郷を起こすなんて、ほとんど不可能に近い。

 不可能に近いのなら、しない方が良いに決まっている。

 遊馬さんに迷惑がかかるし、緋郷の機嫌も悪くなるから避けた方が確実だ。


「それでは、残っている時間は零時から三時、三時から六時ですね。こちらが決めていいのであれば、来栖さん達三人は、三時から六時。今湊さん達三人は、零時から三時にいたしましょうか。反対意見があれば、変えることが出来ますが。どうでしょう」


「僕は良いですよ。来栖さん、鷹辻さんも良いですよね?」


 二人が頷いたので、こちらは大丈夫である。


「私達もいいですよお。そうですよねえ?」


 今湊さん達も反対意見は無いみたいだ。

 そういうわけで、起きている時間帯は決まった。


「時間が決まりましたので、そのように行動をお願いいたします。布団一式は、こちらで用意いたしますので、安心してください。その他、必要なものがあれば、何でも用意いたします。遠慮なく、お申し付けください」


 千秋さんは頭を下げると、冬香さんを残して部屋から出て行った。

 おそらく、これから大広間を寝ることが出来るように、色々と準備してくれるのだろう。


 男手が必要かと立ち上がりかけたが、きっと邪魔になるだけだと考え直した。

 そのまま座ると、隣の鷹辻さんと槻木さんが立ち上がる気配がする。


「俺、手伝いに行ってくる!」


「僕もー!」


 二人は僕がしようとして止めたことを、簡単にやりに行ってしまった。

 行動力が凄い。そこは憧れてしまう。

 二人が部屋から出るのを、冬香さんは眩しそうな目で見ていた。


 こういう風に、行動できる人がモテるのか。とても参考になる。

 今更、僕が言ったところで、二番煎じでしかない。

 改めて椅子に深く座り、僕は何でも無いような顔をする。



 色々と決まってから、遅いかもしれないけど、ふと思ってしまった。

 この部屋で全員で眠ることになったが、皆はそういうのは気にならないタイプなのだろうか。


 僕は、全くそういうのは気にしない。

 寝つきも良い方だし、眠りも深いので、ちょっとやそっとのことでは起きることはない。

 緋郷は寝るのに条件がいるけど、今回ならば問題ないはずだ。


 しかし、人によっては寝つきが悪く、眠りが浅い人もいる。

 中には、人の気配がするだけで眠れない人もいるだろう。

 こんなにも人がいるのだ。

 一人ぐらいは、そういう人がいてもおかしくないと思ったのだが。

 誰も何も言わないということは、皆大丈夫なタイプなのか。


 それならば、遠慮をする必要は無い。

 せっかく組み分けをされたのだ。これを利用する手はない。

 嫌だと思っていたことは忘れて、僕はこの状況を楽しむことにした。



 しばらくすると、腕にたくさんの荷物を抱えた三人が入ってきた。

 荷物といっても、ほとんどが布団である。

 八人分なのだ。それは、とてつもない量になるのは当たり前のことだ。

 その半分以上を、鷹辻さんが運んでいた。さすが力持ち。筋肉は見掛け倒しじゃない。


「あ、私、運びますよ!」


「いいや、大丈夫だ! これぐらい軽いさ!」


 冬香さんは慌てて鷹辻さんの元に向かい、手を差し出したが彼は断った。

 我慢しているわけでもなく、本当に彼にとっては軽いのだろう。


「鷹辻様、槻木様、申し訳ございません。お手を煩わせてしまって」


 布団を部屋の隅に置くと、千秋さんは深々と頭を下げた。


「気にしないでくれ! それよりも、あなた一人で運ぶのは大変だっただろうから、手伝えただけで嬉しい!」


「僕も僕も! あんまりお手伝いできなかったけど、千秋お姉ちゃんが楽になったのなら良かった!」


 二人は頭を下げた千秋さんに対し、手伝うのは当然だと笑った。

 やはり、彼等は心の底から善人なのだ。

 普通はこんなことは出来ない。

 冬香さんが惹かれるのも、分かる気がした。


 僕は自身の敗北を感じながら、別のことも思った。

 槻木さんは、いつまでそのキャラをやっているのだろう。

 色々と分かってしまった今では、何だかうすら寒いものまで感じてしまった。

 騙されていた立場で、そんなことを考えるのはおかしいかもしれないけど。



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