第47話



 アリバイの確認。

 それは、どんな人だとしても気分のいいものではないだろう。

 しかし、緋郷が気を遣うはずもなく。


「それじゃあ、昨夜のことで思い違いがある人は、手をあげてみて」


 楽しそうに言ったが、誰も手をあげない。

 緋郷の言葉を無視しているわけではないようなので、思い違いしている人はいないみたいだ。


「ふーん、そっか。いないんだ。残念」


 残念と言葉にはしているが、その顔は全く残念そうでは無かった。


「あなたの話は、これで終わりでいいのよね」


 早く話を終わらせたいと、りんなお嬢様は進行を再開した。


「いいよ。今日はとりあえずね」


「それじゃあ、今日は容疑者無しで終わりにしましょう」


 りんなお嬢様は立ち上がり、退室しようとした。

 しかし、それを緋郷が止める。


「もう一つの約束。忘れているよ」


「ああ、そうでしたわね」


 わざとではなく、本気で忘れていたみたいだ。

 りんなお嬢様は謝罪をして、立ったまま約束を実行する。


「今夜は、ここで夜をお過ごしになってください。その方が安全で、安心でしょう? これは提案では無くて、命令ですから、守らなかった人にはそれ相応の罰があるので、覚悟なさって」


 反応を見ずに、そのまま出て行ってしまった。その後を、静かに春海さんが続いていく。

 扉が閉まった後、誰かが何かを言うかと思ったが、無言だった。

 こういう時に、真っ先に反対意見を言いそうな遊馬さんが、未だにファイルに夢中だから仕方が無いか。


 それか、ここで一夜を過ごす提案が、魅力的であると思ったのかもしれない。

 犠牲者を出したくない気持ちを、全員が持っているというわけだ。


「本日は、私と冬香が皆様のお世話をさせていただきますので、安心してください」


「そ、それは安心ですけど、また徹夜をするんですか? それは、ここにいる全員が辛いと思います」


 言葉少なく帰ってしまったりんなお嬢様を、カバーするように千秋さんが前に進み出ていった。

 それに対して、賀喜さんが、恐る恐るといった様子で聞いた。

 そういえば、その問題が残っていたんだった。

 どういうローテーションで組めば、文句を言われずにお互いを監視するのが可能か。


「徹夜をすることはございませんので、安心してください。しかし交代で起きていてもらうことになりますが。さすがに、私と冬香にも休息が無いと翌日に影響が出てしまいますので。申し訳ございません」


「い、いえ。それなら」


 二日連続の徹夜は回避されたので、賀喜さんは文句が無くなった。

 確かに、千秋さんと冬香さんの二人で、僕達全員を世話するのは大変だ。

 それでも交代で世話をしてくれるのだろうから、彼女達の方が負担は大きい。


「グループは、三組に分けさせていただきます。二人、三人、三人といった形ですね。そして組み分けは、すでに決まっておりますので、今から言う通りにしてください。起きている時間帯は、現在が二十時ですので、二十一時から零時まで起きている組。零時から三時まで起きている組。三時から六時まで起きている組。こういった形で起きていてください。……ああ、自発的に起きていることは禁止されておりませんので、ご自身の健康状態から好きに過ごされてください」


 千秋さんはたんたんと、今後の予定について説明をする。

 本来ならば、こういった決めごとは発案した僕達がするのが道理なのかもしれないが、組み合わせを決めるのは彼女達に任せた方が上手くいくはずだ。


「それでは、組み分けを発表させていただきます。来栖様、鷹辻様、サンタ様の三人。今湊様、賀喜様、槻木様の三人。遊馬様、相神様の二人です。この組み分けは、変えることはいたしませんし、勝手に変えることは許されておりません」


 ちょっと待って欲しい。

 確かに、昨日のアリバイを証明した組み合わせは避けて欲しいと言ったが、これはあんまりではないか。

 鷹辻さんと一緒に起きているのも何となく嫌だし、今湊さん達のグループもマイペースが多くて心配だし、遊馬さんと緋郷にいたっては、どうして二人を一緒にしようと思ったのか小一時間問いつめたくなる。


 しかし嫌だと言っても変えてくれる雰囲気では無いので、受け入れるしかない。


「鷹辻さん、一緒に話すのはあまりありませんでしたが、この機会に色々と話をしましょう」


「お、おう! 幽霊とか、そういう話じゃなければ構わない!」


「わーい。紗那お姉ちゃんと、出流お姉ちゃんと一緒だ! 嬉しいな」


「このメンバーで過ごすなんて、今から楽しみですねえ」


「は、はい。楽しみましょう」


 他の人達は嫌ではないのかと、様子を伺ったら意外にも好意的に捉えているみたいだ。

 遊馬さんはまだまだファイルを読み終えていないので、普段だったら絶対にうるさくしているはずなのに、静かに文字を追っている。

 緋郷は、誰と組んでも変わらないので、ただただ興味が無さそうにしている。


 そういうわけで、この波乱の組み合わせを、今のところ嫌だと思っているのは、僕だけみたいだ。

 まだ何時に起きているのかは決まっていないが、何かが起こりそうな予感がする。



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