第22話




 昼食で激辛チャレンジを終えた僕と緋郷は、未だに残っている鷹辻さん達と話をすることにした。


「つまりはこういうことか? 来栖さんと賀喜さんは元から顔見知りで、鳳さんと飛知和さんは、昔誰かに何か酷いことをした! 殺された理由は、もしかしたらそれが原因かもしれなくて、資料が図書室にあるかと思って探しに行ったら、昨日はあったはずの資料が無くなっていた! きっと、犯人に繋がる証拠が書かれていたから、犯人が持ち去ったと!」


「はい」


 詳しい説明をありがとうございます。

 ノンブレスで、今の状況を簡潔に説明してくれた鷹辻さんに、心の中でお礼を言う。

 僕だったら、こんなにたくさん一気に話したら、多分酸欠になるはずだ。


「二人は、持っていった人に心当たりとか無いですよね?」


 色々な人と、それなりに友好関係を築けている二人なら、もしかしたら心当たりがあるかもしれないと思った。


「それは犯人の可能性がある人、ってことなんだろう? 俺達はまだ、誰が犯人なのかは分からない! だからその質問には、分からないと答えるしかないな! 紗那もそうだろう?」


「サンタのお兄ちゃん。ごめんなさい。僕も分からない」


「謝らなくていいよ。僕も分かっていないのに、嫌な聞き方をしちゃって、すみません」


 今のところ、鳳さん達を殺したのを知っているのは、犯人自身しかいないというわけか。

 誰も声を上げていないので、そう判断出来る。

 もしかしたら、分かっているけど言わない人が中にはいるかもしれないが、それは考えないものとしよう。


「全員にアリバイがあることに関して、どう思います?」


「それは……」


 ここで鷹辻さんは、言葉に詰まった。


「誰かが嘘をついているのか、時間の隙間を縫って完全犯罪を遂げたのか」


 だから僕が代わりに、考えられる案を出す。


「そうだな! そういう考え方もあるな! 俺達は、もう一つの考え方もあるんじゃないかと、話をしていたところなんだ!」


「もう一つの可能性、ですか?」


「ああ! 考え方としては無茶苦茶かもしれないが、全員にアリバイがあることに関して説明がつく! しかし逆に、分からなくなることも増えてしまう、という難点があるんだ!」


 言葉に詰まったのは、その荒唐無稽な考えが一笑にふされるのではないかと、心配になったかららしい。


「それは、どういう考えですか?」


 鷹辻さんは、内緒話をするかのように顔を近づけてきた。


「それはだな! この島にいる人以外の、第三者が殺したという可能性だ!」


「それは……」


 確かにめちゃくちゃな考えだ。

 それを認めてしまえば、犯人を捕まえるという前提が覆ってしまう。

 しかし、ここは現実である。

 ミステリー小説では奨励されていない、謎の外国人が犯人の可能性だって、大いにありえる。


 むしろ、今まで誰もその考えに至っていなかったことが、不思議でならない。

 全員が、この島で滞在している誰かが犯人だと、何を言うまでもなく決めつけてしまっていた。

 そこから覆ってしまえば、今までやってきたことは全部無駄になる。


「でもどうして殺したんでしょう?」


「……そこまでは、さすがに分からない! もしも本当に第三者だとしたら、行きずりの犯行だって考えられるからな!」


 行きずりの犯行。

 そうだとしたら、たまたま鳳さんと飛知和さんは、殺されただけになってしまう。

 何万分、何百万分の一の確率だろうが、ありえないと切り捨てることは犯人じゃないと出来ない。


 くどいかもしれないが、もちろん僕は犯人じゃないので、切り捨てられなかった。


「そうだと考えれば、こうやって誰かを疑うことをせずに、お互いを守ればよくなる! 何が目的だとしても、すでに達成した可能性だってある! 警察をそれでも呼ぶのはいけないのなら、残りの滞在日数は一緒に過ごせば解決だろう?」


 必死に言い募る鷹辻さんは、最初からかもしれないが、誰かを疑うということをしたくないみたいだ。

 それにしては、緋郷を軟禁する時は票を入れたらしいが、それは空気を読んでなのだろう。

 だからこそ、荒唐無稽だとしても、第三者の可能性に縋りたくなっている。


 きっと、本人が一番分かっているはずだ。

 この考えが、色々な可能性の中で、一番起こりえないことだと。

 しかし彼の精神衛生上、そうだと思わせていた方がパニックになりづらいか。


「そうですね。もしかしたら、今日からはここで一緒に過ごした方が、犠牲者がこれ以上出ないかもしれないですね」


 内外どちらに犯人がいたとしても、ずっと一緒に過ごしていれば、殺す暇なんて無くなる。

 そうすれば、もう誰も殺されない。


 ミステリー小説を読んでいて思うのだが、何故最初の犠牲者が出た時に、この案を採用しないのか不思議である。

 まあ、こうしてしまったら、もう誰も殺せなくなるから当たり前か。

 こういう時の登場人物は、頭がキレるが、どこかが抜けていることが多い。


 みんながみんなを疑っているのだから、早くこうするべきだったのだ。


「そうだな! 外から、誰かが入ってきても、これで誰も殺されずに済む!」


 僕の案に鷹辻さんも肯定してくれて、話は一旦収束を迎えかけた。


「あの……外から誰かが侵入するなんて、100%ありえませんよ……?」


 しかし、それを邪魔する言葉が、傍観していた冬香さんの口から放たれた。

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