第16話
「何の用ですか?」
僕と緋郷が近づくと、賀喜さんをかばうかのように、来栖さんが一歩前に出た。
まるで僕達が敵かのように、その表情は険しい。
「たまたま、来ただけですよ。先程まで、灯台の方を見ていたんです」
まずは敵じゃないと安心してもらうため、僕は自分の情報を開示する。
二人をつけてきたわけではないと、まずはそれを伝えたかった。
「そうですか」
尾行ではないとは分かってくれたようで、少し警戒は解かれたけど、それでも賀喜さんを後ろに隠したままだ。
「お二人は、何でここに?」
こちらも教えたのだから、そちらも教えて欲しい。
そういうことで聞いてみると、二人は顔を見合わせ、気まずそうに下を向く。
「恋人同士の逢瀬ですか」
「そ、そうです!」
答えづらいのは、他の可能性が高いけど、ずっと待っているのも時間の無駄なので、候補を出すと飛びついてきた。
そうされてしまうと、分かりやすく別の理由だと言っているものだが、焦っていると思考力が低下してしまうようだ。
「お二人は、随分と仲がいいみたいですね。いつから、そんなに仲良くなったんですか?」
聞けるうちに聞いておかないと、逃げられてしまいそうなので、早めに攻撃することにする。
また顔を見合わせて黙り込んでしまった二人は、どう答るか迷っているようだ。
逃げる気配はないので、さらに追撃をする。
「緋郷が言うにはですね、二人は自己紹介の時から他人のようではないように見えたらしいんですが。実際のところは、どうなんでしょう?」
ここで逃げたとしたら、後ろめたいということがある証拠だ。
嘘でもいいから、何かを話さなくてはならない。
口裏を合わせる余裕は無いので、どう答えるのか見ものである。
二人は何度も視線を合わせたけど、相談できる雰囲気では無いのを感じ取ったのか、来栖さんが代表して話し始めた。
「すみません。私達は、一つ嘘をつきました。実は、私達はこの島に来る前から、お互いを知っておりました」
これは、きっと本当のことを話してくれる。
「それは、どういった経緯で知り合ったんですか?」
「姫華様と、飛知和様が昔から知り合いだったのはご存じでしょう。二人は、定期的に会っておりました。その時、私と賀喜様は、話はしませんでしたが顔は合わせていたのです」
「それじゃあ、他人以上知り合い未満の関係だったってわけですね。それなら、わざわざ言うことでも無いかもしれませんが……」
そこで僕は、ふと思い出す。
「あれ? でも前に、鳳さんと飛知和さんが知り合いだったと話をした時、とても驚いていませんでしたっけ」
来栖さんが驚いていたのは、演技だったのか。
そうだとしたら、とても演技が上手だ。
「そ、れは……私達も知り合いだと分かってしまったら、疑われると思いまして……」
仕方なく驚いた振りをしました、すみません。そう言いながら、深々と頭を下げた真摯な態度に、これ以上追求するのはやめた。
「そうですか。そういう繋がりがあったんですね。鳳さんと飛知和さんが会っていた時は、どんな話をしていたか聞いていましたか?」
鳳さんと飛知和さんの関係が、ちょっとした顔見知り程度ではないとわかった今、二人のことを知れば殺された理由が見えてくるかもしれない。
二人とも死んでいるから、本人には確かめられないので、ずっと一緒にいた人に聞く以外にない。
「そうですね。お二人が話をしている時は、私達は別の部屋に待機させられておりましたので。どう言った話をしていたかは、申し訳ないですが分かりません」
まあ、そう上手くはいかないか。
残念な気持ちはあるが、分からないものは分からない。
「しかし、ある時扉の隙間から聞こえた言葉がございます。何のことだかは分かりませんが、『バレていない』『上手く隠しきれた』『これは二人の秘密』と言っておりました」
「それは……」
何かの罪の話ではないのか。
二人は犯罪を犯し、それを上手く隠蔽した。
だから定期的に会って、お互いが裏切らないのかを確認していたように思える。
その犯罪の種類は、どこまで重いものか。
それによっては、恨まれる理由になる。
「二人の隠し事までは分かりませんよね?」
きっと無理だろうけど、望みをかけて聞く。
「申し訳ありませんが……」
来栖さんが、眉を下げて謝ってきた時、今まで後ろに隠れていた賀喜さんが顔を覗き込ませてきた。
「あの……私も全ては知りませんが、飛知和さんは、誰かに害をなしたようなことをしたらしいんです。たまに独り言で、そのようなことを言っていたので……」
言いたいことだけを言うと、また顔を引っ込ませる。
しかし、いい情報ではあった。
誰かに害をなしたのであれば、恨まれて当然だ。
鳳さんと一緒に行ったとしたら、それは立派な殺される理由になる。
あとは、誰に何をしたのか分かれば、そうすれば犯人に繋がるのだが。
そこまで知るには、僕達の手元には調べる手段が無さすぎた。
ここに来て、初めてスマホがあればいいと思った。
しかし、りんなお嬢様が返してくれることは無いだろうから、八方塞がりである。
犯人に近づけたのに、後一歩が足りない。
歯がゆい思いで、僕は唇をかみ締めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます