第13話
灯台は随分と立派なもので、十人ぐらいで腕を広げて、やっと包み込めるぐらいの大きさだった。
高さも首が痛くなるぐらい上まであり、きちんと修繕されれば、きっと夜は綺麗な光を船に向かって運びそうだ。
お金はありあまっているだろうから、とてももったいない。
千秋さんに釘を刺されてしまったが、中に入っては駄目だろうか。
きっと中はボロボロだとしても、興味深いものになっていそうだ。
歴史的価値がありそうに思えるのは、上手く保存が出来ているからか。
きっとしているのは、メイドさん達なのだろう。
何から何でも出来過ぎて、尊敬を覚える以上に怖くなってくる。
この島に来て、何度もカメラを持ってくれば良かったと感じる。
カメラを持ってくるのは禁止されていなかったから、写真も撮り放題だったはずだ。
それは他人に見せなければ、現像しても怒られないだろうから、手元に思い出として残すことが出来た。
本当に、後悔というのは先に立たないものである。
「中に入ってみたいねえ」
「本当。でも注意されたから、今は駄目だよ」
「それは残念」
緋郷にも、灯台の価値が分かるらしい。
ほれぼれしながら口に出した言葉に、僕も同意する。
こっそりと入りたいが、手首につけた腕輪の存在があるので、それは無理だろう。
勝手に入ったら、もしかしたら爆発をする可能性がある。
そういうことを、平気な顔でやりそうな愉快犯な部分を持ち合わせていて、僕達の腕なんて全くの価値を見出していない。
さすがにこの年齢で、手首が無くなるのは嫌だ。
下手なことはしないようにしよう。
後で、土下座でもしていれてもらえるのが、一番平和的な解決方法なのだけど、許してくれるとは思えなかった。
何とか腕輪を外す方に、今夜試行錯誤をしてみようか。
緋郷も喜んで協力してくれるはずだ。
「この中に、死体を隠すことは簡単だろうね。でもそんなことを言ったら、この島中、どこにでも隠せるはずだよ。ここに隠すメリットが無ければ、必要がないよね。メリット、何があると思う?」
「んー。ここら辺に埋めておけば、何かあった時に掘りだせるとか? あっ! 例えば、この灯台が墓標代わりとか!」
「ああ。そういった考え方もあるね。とても分かりやすい。確かに、墓標にはおあつらえ向きだ。いい考えだね、サンタ」
「おお、緋郷に褒められた」
自分でもいい考えだと思ったけど、緋郷に褒められるほどだとは。
しかし、それが良い考えだとすると、夕葉さんが埋められている可能性も高くなる。
僕は気まずく、遊馬さんの方を見た。
会話がギリギリ聞こえるぐらいの近さにいた彼は、目が合うと睨みつけてくる。
「夕葉は、ここにいるかもしれねえんだな」
「い、いや。まだそうだと決まったわけではないですよ。それに今回みたいに、殺人を通報しないのは初めてなのかもしれませんし」
「はっ。あの落ち着きようは、初めての事態なわけがねえ。これまで何回も、同じことをしてきたはずだ」
もう誰の言葉も、彼には届かないだろう。
すでに彼の中では、夕葉さんはりんなお嬢様に殺され、この島のどこかに埋められているということになっている。
まだ証拠は一つも無いのだから、もう少し様子を見た方が良いと思うけど。
もしかして彼も、千秋さんに夕葉さんがこの島で消えたという話をされたのだろうか。
そうすれば、余計に彼は躍起になるだけだから、そこまで考え無しのことはしないか。
誰にも止められない遊馬さんは、鼻を鳴らすと別の場所に歩いて行ってしまう。
その方が僕達にはありがたいので、そのまま見送った。
完全にとは言えないが、ようやく緋郷と二人きりに慣れた。
「緋郷は、どう思う?」
「サンタは、いつも突然だよね。もっと分かりやすい質問をしてくれないと、俺も答えようがないよ」
「あ、ごめんごめん。えっと、この灯台をどう思うかってことなんだけど。本当にここは、古くて危ないから立ち入り禁止なんだと思う? それとも何かを隠しているから、規制線を貼って、許可を得ないと入れないようにしたんだと思う?」
「そう言っているけど、サンタの中ですでに答えは出ているんじゃないの?」
普段はボケているけど、こういう時に鋭くなるのは、どうしてだろう。
僕は緋郷から視線をそらして、千秋さんが遠い位置にいるのを確認する。
「まあね。ここまで厳重にしているんだから、どう考えても何かを隠しているよね。まあ、隠しているのが死体なのか、それとももっと面白いものなのか、そこまでは分からないけどさ」
ただ危険なだけならば、口頭で注意するだけでも足りる。
知られたくない何かがあるから、こうしているのだろう。
僕は灯台を見上げ、上の方にある窓を視界に入れる。
こういう窓が普通はどういう種類か知らないが、ここのは曇りガラスである。
まるで中のものを見られたくないようだと、そんな想像をしてしまう。
「……ん?」
「どうしたの?」
「なんか、影が通りぎたような気がして」
何かを隠しているんじゃないかという目で見ていたからか、窓のところを走っていく姿が見えた気がした。
本当に一瞬のことだったので、見間違いの可能性もあるが、それでも何だか無性に気になってしまう。
灯台の中に誰かがいるんじゃないか。
そんな新たな可能性に、ますます中への興味を抱きながら、僕はもう少し外観を見ることにした。
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